第29話
■リンクル殿下視点■
「殿下、部下から報告がありました」
第三騎士団隊長の面会要請の言葉に、期待と、期待が裏切られるであろう未来を想像し複雑な気持ちになる。
3年がたつ。
あの日から3年……。
シャリナはどこへ行ってしまったのだろう。
あんなことをしでかしてしまったのだ。
顔も見たくないと思われても仕方がない。
だから、家庭教師が必要なくなりまとまった時間が取れるようになったから幼少期にすごした隣国を旅するという言葉も分かる。
顔を合わせないようにと……そう思ってのことだろうと。
それだけでも泣きそうになった。
もう、会ってくれないかもしれないと。
それでも、謝りたい。
いや違うんだ。それでも……。
シャリナに会いたい。顔が見たい。
会いたくないと言われれば無理に会おうなどとは思わないけれど……。
それでも、最後にちゃんと……。
今までの感謝の気持ちは伝えたいと思っていた。
伯爵家に戻ったら連絡を欲しいと伝えたのに。
いつまでたっても連絡はこなかった。
立太子から3か月。やっと伯爵家から届いた手紙には「娘と連絡が取れなくなった」という内容だった。
元気で無事に生活しているから心配するなと。
こちらの生活がすっかり気に入ったので、もう国には帰らないと。
あちらこちらを転々とするから手紙でやり取りは難しくなるだろうと。
もし自分に何かあれば連絡がいくように手配はしてあるので、連絡がなければ無事だから大丈夫。探さないでほしい……と。
そんな内容が書かれている手紙を見せられた。
もしかしたら、俺の顔が見たくないから……国を出た?
この国に居れば、嫌でもどこかしらで名前を聞くだろう。
それだけじゃない……。
俺の気持ちが重荷になってしまうことだって。
誰かに知られてしまえば、貴族社会では心無い言葉に傷つくだろう。
隣国に移住して生活する、その決断は確かに、この先ずっと何かにつけて嫌な思いをしながら生活するよりはシャリナにとって幸せだろう。
だからって、家族との連絡を絶つなどと……。
生活の支援くらい俺にさせてくれても。シャリナにはその権利がある。
いや、そんな関わりさえ持ちたくないのかもしれない。
そこまで、俺は嫌われてしまったのだろうか?
許しを請うことさえ許されない……。
気持ちを伝えることすら、許されないのか……?
ならせめて……。
感謝の気持ちを……贈らせてほしいと。
シャリナならば、謝罪の言葉を受け取れないと言っても、感謝の言葉は受け取ってくれるだろう。
俺の我儘を……。初対面の時の失礼な態度も、それから先のどう伝えればいいのか分からなくてしてしまった意地悪も、すべて受け入れ許してくれた優しいシャリナ。
最後の我儘だ。
謝罪はいらないと言われたら、感謝は伝えたいからと……。贈り物を受け取ってもらおう。
……カードを添えて。
それくらいの我儘は許してもらおう。
手紙は受け取ってもらえなくても、カードくらいは……。
「俺は……シャリナと……」
ファールメリ……。
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