第25話
★視点戻る★
街並みの様子が変わってきた。
庶民が主に生活する場所から、貴族街に近い場所に入ったんだ。
貴族も利用する商店などが並ぶ区域だ。
貴族が利用する区域は、一つずつの店が大きく、馬車が利用しやすいように道幅も広く、馬車を止める場所もある。
このまま進んでいくと貴族たちが住む区域になり、さらに進めば王城にたどり着く。
流石に貴族街まで進むと、庶民のなりをしている私は目立ちすぎるし、私の顔を知っている人も増えるから危険だろう。
すでにここでも、庶民の数はグッと減るから結構目立ってしまっている。
「これ以上先に進むのは危険そうだなぁ……どうしよう……」
もし本当に隠れ住んでいるのなら、絶対に見つかるわけにはいかない。
記憶がないのだ。
見つかったらどうなるのか……という情報もない。
最悪私もルゥイも殺されてしまうし、かくまったという罪でマーサさんたちにも罰が下る可能性だってある。
心臓がばくんと跳ねた。
立ち止まって考えているのも目立つので、手近な店に入る。
お菓子の店のようだ。
「ルゥイに何か買っていこう……マーサさんと息子さんにも……」
商品を眺めていると、貴族向けの高級菓子だけではなくて庶民向けのお手頃価格のお菓子もあった。
貴族街よりも庶民街に近い立地ということもあって少し余裕のある庶民もよく買いに来るのだろう。私以外にも多くの庶民たちが店にはいた。
これならそう目立つこともないわね。
「シャリナお嬢様っ!」
え?
声をした方に視線を向けると、お母様付きの侍女のマールがいた。
「お嬢様、ご無事だったのですね!奥様も旦那様もそれはご心配していらっしゃって……」
どうしよう、どうしよう。
お父様とお母様は私のことを心配しているというのは本当?
だとしたら、別に身を隠す必要もないの?
「あ、あの……どちら様でしょうか?」
体が硬くなる。
失敗するわけにはいかない。選択肢を間違えては駄目だ。
記憶がない今はうかつなことはできない。
……何も分からない状況で「今の状況をひっくり返す選択」はまずい。
マーサさんの家を出て伯爵家に戻る……とか。
「私をお忘れですか?奥様の……シャリナお嬢様のお母様の侍女のマールです」
覚えてるよもちろん。
3年ぶりじゃなくて、記憶を失った私にとっては、数日ぶりでしかないんだもの。忘れるわけがない。……ああ、でも、老けたね。3年で白髪がずいぶん増えている。
数日ではなく本当に3年の月日がたったのだ……。
「ご、ごめんなさい、本当に、あの人違いじゃないかしら?奥様と旦那様というのはお貴族様なのかしら?マールさんが侍女だというのならきっとそうよね?」
「シャリナお嬢様ではないのですか?」
まだ疑わしい目をマールは私に向けている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます