第26話

「ごめんなさい。貴族の知り合いはいないので……人違いで間違いないと思います……。その、お嬢様と私はそんなに似ているのでしょうか?……その……」

 ごめんね、マール。

 記憶が戻って何もかも分かって、お父様とお母様に連絡を取っても大丈夫だと分かったら必ず手紙を送るから。

 家に戻っても大丈夫だと分かったら、戻るから。

 例え、記憶を失う前の私が、お母様とお父様と喧嘩をしていたとしても、顔を見せに行くから。

 だから、今は、全力で身を隠させて。

「街中で西から来た商人にも人違いされたので……」

 私が住んでいる、マールさんお店とは反対の方を口にする。

「え?それは本当ですか?西って、どこの街か分かりますか?」

 ごめんね、マール。

「ごめんなさい。その人も移動中で私にそっくりな人とは乗合馬車で一時一緒になって少し話をしただけみたいで……街の名前をいくつか口にはしてたと思うんですけど、覚えていなくて……西のということしか……」

 マールが頭を横に振った。

「いえ、ありがとうございます。それだけでも、旦那様がお聞きになれば喜ばれます」

「あの、旦那様って?もし、また誰かに私とそっくりな人と会ったという人がいれば伝えますけど……」

 マールから聞いた名前は、確かにお父様の名前だった。

 伯爵家は取り潰しになっていない。

 屋敷も同じ場所にある。マールという侍女を雇い続けているのだ。

 貧乏ではあっても、よりひどい状況に陥っているわけではないだろう。こうしてお菓子屋に侍女が買い物に来られるのだ。


 マールが店を出るのを見送ってホッと息を吐き出す。

 伯爵家が無事でよかった。

 マールは、お父様やお母様が好きだったオレンジの入ったクッキーを買っていた。それから、私が好きだった紅茶のクッキーも。

 私が好きだった紅茶のクッキー……。

 いつ、私が帰ってもいいようにと用意してくれているんだろうか。

 お父様……お母様……。

 心配していると言っていた。

 マールの様子では探している様子だった。

 ということは、少なくとも私は連絡を取っていなかったのだろう。

 手紙で近況を届けていたり、居場所を知らせていたりしてなかったということだ。

 心配しなくていいような理由も伝えていなかったということも分かった。

 家族にも内緒にして身を隠していたことはこれで間違いなさそうだ。

 ……本当に、一体何が……。

 ルゥイを護るためというのが一番大きそうだけど、でもお父様やお母様はとてもやさしくていい人だ。ルゥイを護るのに協力してくれそうなもんだけど……。

 見張られているのだろうか?私がルゥイと一緒にいることはバレていて、家族と連絡を取るかもしれないと伯爵家が見張られていて協力を頼めないとか?

 ……どちらにしても目的は達成した。

 長居して私を知っている人にこれ以上会うわけにはいかない。

 さっさとお菓子を選んで帰ろうとして目にはいる。

「あ、金平糖だ……」

 小さな砂糖でできた色とりどりの粒。

 

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