第19話
10歳で外国語など必要ない、無駄な時間を別の勉強に当てた方が合理的だと言った殿下。
教え始めてすぐに気が付いた。本当に忙しいスケジュールなのだ。14歳までに、普通の貴族の子が17歳までに学ぶ内容をすべて終える。それにプラスして帝王学に、隣国のことも学ぶ。さらには社交もおろそかにできないためこなし……15歳になってからは仕事もこなすようになった。
それからは、私が過ごした隣国のことを聞かれることも増えた。言葉だけじゃなく隣国のことをもっと深く知ろうとする姿勢が見られるようになったのだ。
より良い関係を構築するにはと、考えてもいたと思う。
立派な王になるんだろうと安心する反面、無理しすぎてしまわないか心配だった。
だから、私の授業では語学の勉強の時間ではあるけれども、お茶を飲み庭を散歩し、時にはソファに深く腰掛け、シチュエーションごとの言葉の練習をして、少しでも休んでもらえればと工夫した。
「シャリナ、ベッドの中での会話は教えてくれないの?」
と、時々からかわれもしたな。
「それは、直接お相手の方から教えてもらってください」
っていうか、ベッドの中での会話なんて、経験ないから教えようがないんだけど。
とにかく……。
そんな風に無理しすぎてしまうんじゃないかと心配な殿下に、一緒にいるだけで幸せに感じるような相手がいることがどれほど救いになるのか。
嫌いだとか負担が大きすぎるとか、女性が病んでしまうほどであれば無理強いはだめだけれど。
そうじゃないなら……ぜひ女性には首を縦に振ってほしい。
「じゃあさ、シャリナ……これ、どう思う?」
殿下が、小さな箱を取り出した。
箱のふたを殿下が開くと、中には深紅のベルベットの生地の上に、10ほどの銀の指輪が並んでいた。
「これは、デザイン見本なんだ。この中から選んだ物を金で作り、宝石をはめる」
なるほど。すでに作られている指輪から選ぶなんてことはしないんだ。
デザイン画から選ぶこともなく、こうして実際に指輪の形になった見本から選ぶのか。
流石王室。
「この細いリングが絡み合うようなデザインは、西方で人気のものですね。こちらの花びらのは……薔薇のものは……」
指輪のデザインにも国によっては人気の傾向が違うし、特別な意味があることもある。それを教えるにはちょうど良いと一つずつ説明する。
リンクル王子はきき終えてから私の顔を見た。
「僕の聞き方が悪かったのかな……。シャリナはどれが好き?」
「私、ですか?そうですね……」
自分のために指輪を選んだことがなかったから全然分からない。
「えーっと、これ、でしょうか?」
10個の中で一番シンプルな形のものを指さす。
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