第18話

「プロポーズを……受け入れてくれるか……が問題……」

「リンクル殿下のプロポーズを……断るなんて……!」

 ちょっとむっとしてしまった。

 私の自慢の教え子であり、かわいい弟のような存在。

 優秀で頑張り屋で優しい。その上、王家に現れる青く美しい瞳に輝く金の髪と、王妃様譲りの整った顔立ち。

「リンクル殿下、自信を持てばいいわ。あなたは素晴らしい王子よ。きっとプロポーズを受け入れてくれるはずよ」

 殿下は下を向いたまま私の手をもんでいる。

 これは、自信がなくてもじもじしている感じなのだろうか?

「……でも、私なんかと言って……断られる気がするんだ」

 殿下の手をぎゅっと握り締める。

「殿下が素敵な人だと思っているんでしょう?だったら言ってやればいいんです。僕が素敵だというその言葉を否定するつもりなのかと。僕が素敵だと思うのだから、私なんかなんて言わないでほしいって」

 殿下が私の手をぎゅっと握り返してくる。

「分かった。でも……僕のこと好きじゃないかも……そういう対象として見てくれてないかも……」

 は?

 相思相愛の子がいて、プロポーズするわけじゃなくて、まさかの片思い?

「殿下、その方とは仲が良いのですか?」

「……うん。悪くはないと思う。」

「その方に、他に思い人が?」

「……いない、はず」

「では、問題ないのでは?」

「え?」

 殿下がパッと顔を上げた。

「貴族……特に上位貴族や王族の方は、政略結婚が当たり前でしょう?残念ながら嫌いな人と結婚することもあるでしょう。仲の良い相手であるのは幸福なのではないですか?……一緒に過ごすうちに恋愛に代わるかもしれませんし……」

 殿下が真剣な表情を見せ、それから小さな声でつぶやいた。

「シャリナは?」

「え?」

「あ、そ、その、もしだよ、シャリナなら、僕と結婚してくれる?僕がプロポーズしたら、シャリナならどうする?」

 本心で言えば、断るだろう。5つも年上の王太子妃など陛下も世間も認めるわけがないだろうし。

 それに、弟みたいに思っているし、何より王妃教育も必要だろう。それに……と、次々と断る理由が頭に浮かぶ。

 それでも……。

「その……恋愛対象として殿下を見たことはありませんが……。国を支えるパートナー、家族として必要とされるのであれば、お受けするでしょう」

 殿下が自信が持てるようにと、言葉を探す。

「ほ、本当?本当に僕と結婚してくれる?」

「殿下の選んだ素敵な方も、きっと同じように答えてくださいますよ。殿下がお選びになったのでしたら、自分の利益ではなく国のことを考え行動してくださる方でしょう?」

 殿下が大きく頷いた。

「もちろん。きっと外交では手腕を発揮してくれるし、僕が間違った考えを持てば諫めてくれる。それに、きっと、生まれてくる子供もかわいがってくれるだろうし、それから、えっと、何より、僕は一緒にいると幸せな気持ちになれるんだ」

 リンクル殿下の幸せそうな顔を見る。

 ……これは、もう、その女性に絶対うんと言ってほしい。

 もし、いろいろな事情で「私なんか」だとか「自信がない」だとか「無理です」だとか「他にいい人が」だとかグダグダ言うようならば、尻を蹴っ飛ばして「私の大切なリンクル殿下を幸せにしてやって!」と言ってやりたいかも。

 私は見てきた。

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