第12話
「ほーら、高い高いだぞぉ!」
世界一かわいいルゥイは、その可愛さで周りの人たちもメロメロのようだ。
乗合馬車の乗客の一人が遊んでくれている。
「きゃっー、きゃーっ」
ルゥイが楽しすぎて、奇声を上げている。
……高い高いで、あんなに喜ぶなんて。
父親が居たら、ああして高い高いをしてもらって、もっと幸せだったのかな……。
ルゥイが私の本当の子で、愛する人の子で……愛する人と結婚できたら……。
って、何を馬鹿なことを!
それができていないから、今ここにいるんだよね。
……もしかして、私、庶民に恋をして家を出た?で、死んじゃった?家にも戻れなくてこの生活?
うーん。
「では、そろそろ出発しまーす」
御者の声に、馬車に乗客が乗り込む。
ルゥイは高い高いをしてくれた男性に肩車されて馬車のところまできた。
肩車からおろそうとすると、ルゥイが男性の頭にしがみついた。
「やー、やー!」
おりたくないと駄々をこねている。
「す、すいませんっ!」
慌てて男性からルゥイを引き離して抱きしめる。
「やー、もっと、ぎゃー」
男性が笑ってルゥイの頭を撫でる。
「あはは、そうか、楽しかったか坊主!王都には父ちゃんに会いに行くんだろ?あったらいくらでもしてもらえばいいさ!」
ずきりと心臓が痛む。
高い高いも肩車も……。
してくれる父親はいない。
王都で警邏をしている旦那がいるというのはマーサさんに言われてついた嘘だ。
未亡人だと知ると不埒なことを考える人間がいるからと。
旦那さんが死んで一人で子供を育ててきたマーサさんからのアドバイスだ。旦那の職業は警邏など問題を起こすと後が怖いと思われる職業にするといいというのも。
「ほら、ルゥイ、馬車。お馬さんがまた走るよ。ガタゴトガタゴトだよ」
「あー、あ……ガタタタゴトトト」
「そう、ガタガタごとごとするよ」
「ガタタタ、ゴトトト!」
ルゥイの気をそらすと、けろりと笑顔に戻った。
周りの人たちは泣き散らしたルゥイをうるさいと言うこともなく、言い間違いをかわいいと笑っている。
本当に、いい人達ばかりでよかった。
と、ほっと胸をなでおろす。
車輪が小さな石に乗り上げたのか、馬車が少しはねた。
ルゥイはそれも楽しいようでけたけたと笑っている。
いい子だ。
どんな事情があるのか分からないけど、守らなくちゃ。絶対にルゥイを守らなくちゃ。
いったい、何から?誰から?
分からないのが不安だ。知らないまま敵にルゥイを渡してしまうようなことがあってはいけない。
「マーサさん……王都についたら」
「ああ、分かってるよ。ルゥイは見といてあげるから安心しな。王都の知り合いに会いに行くんだろう?」
私の顔を知っている人がルゥイを狙っているならば、ルゥイと一緒に行動してはまずい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます