第10話

「……ありがとうございます。殿下」

 手を出すと、殿下が私の手にネックレスを載せた。

「……綺麗な、青。空の色ね」

「はぁ?空はもっと薄い青だろ、この青色は、俺の目の色の方が近いだろ!」

 リンクル殿下がグイっと顔を近づけ目を指さす。

「……そうね。この国の空はもっと薄く見えるわね。でも、殿下の目の色のように青く空が見える国もあるのよ。ああ、山に登っても空の色は違ってみるわ。吸い込まれそうなほど真っ青な空を見たときには美しさに息が止まったわ。……殿下の瞳も、その空のように美しい」

 じーっと殿下の目を覗き込むと、殿下の顔が赤くなってぷいっとそっぽを向いてしまった。

 美しいなんて言われて恥ずかしくなっちゃったかな?

 そっぽを向いた殿下がまた私を見た。

 手の平のネックレスを乱暴につかんで、私の後ろに向かう。

「つけてやるっ」

 王子にネックレスをつけさせるなんてっ!断ろうと思ったけれど、プレゼントしたものを早く使ってほしい気持ちはよくわかる。

「お願いします」

 ここは素直につけてもらうべきだろうと、髪をかき上げると、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。

 殿下、もしかして緊張してる?そりゃそうよね。ネックレスって小さくて留め金を留めるのには慣れが必要。きっと初めてのチャレンジなんじゃない?負けず嫌いだから失敗して恥をかきたくないって思ってるんじゃないかな?

 なんて思っていたら、あっさりとつけ終わったようだ。

「うん、似合うな」

 殿下はネックレスをつけた私を見て満足げに頷いた。

「大事にしろよ」

「もちろん。殿下にいただいたものを粗末に扱うことなどありえません。大切に保管――」

「しまい込むな!毎日つけてこい!じゃなきゃ意味がないだろ!」

 意味?贈った意味がない?

 ……確かに、王子が臣下を大切にしているというアピールする意味合いもあって身に着ける物を下さったというのなら、周りの目に止まらなければ意味がないか。

「流石に毎日は……その……落としてしったり不安で……」

 私が「殿下にいただいたの!」とあちこち自慢できるような社交上手な女性だったらよかったんだけど。

「なくしたらまた贈る。何度だって……だから、ちゃんとつけろ」

 思わずくすりと笑いが漏れた。

「流石に、何度も無くすことはないですよ……分かりました。つけますね」

 ……あれから、王宮へ行くときは毎日つけていた。

 殿下は、私の首元を見て、青い宝石のネックレスがあるのを確認すると嬉しそうに笑っていた。

 そうだよね。

 自分が贈ったものを大切に使ってくれているの見たら、嬉しいよね。

 私も……。

 殿下の誕生日に光にかざすと金色みたいな綺麗な黄色のガラスペンを贈った。

 殿下が大切に使ってくれるのを見て、嬉しかった。

 ……まだ、殿下は使っているだろうか。

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