第9話
「じゃ、俺が成人するまで結婚しないよな?俺は……俺は、成人したらすぐに結婚するからな」
「え?まさか、私に先を越されたくないってことですか?……先に成人したのは年齢的に仕方がないけれど、結婚は自分の方が先にするって言いたいんですか?」
負けず嫌いなのは知っていたけれど。
私が、私はもう子供じゃないなんて自慢気に言ったから気に障ったかな。
「そうじゃないっ、そうじゃなくて……」
殿下の瞳が言葉を探してさまよう。それから、ぎゅっと強く目をつむってからぱっと開いた。
何か言葉を飲み込んだような、決意したような様子だ。
「すぐに、シャリナよりも背が高くなるし、すぐにシャリナよりも力が強くなる。俺は……その……」
「……そうですね。殿下はどんどん背が高くなって。初めて会ったときは、こんなに小さかったのに。いつの間にか私と同じくらいになったのね」
こんなにと、胸元くらいに手を前に出すと、殿下がむくれた。
「そんなに小さくなかった。合ったときもこれくらいはあったからな!」
私の手を掴んで、肩の上に持ち上げる。
「そうでしたっけ?」
私の記憶の中ではとっても小さな子供にすり替わっちゃったのかな?
「俺は、そんなに子供じゃない。俺は……」
目の前にいる12歳の殿下。確かに身長は、もう私と同じくらいだし、声も低くなった。私の手を持ち上げている手もなんて、私よりも大きいくらいだ。
剣を握り続けて、硬くなった手の平。
「ガットー ラル ブルネラ~お誕生日おめでとう~」
リンクル殿下が、そのまま私の手を引き寄せて、甲に唇を落とす。
「ひえっ」
よほど親しい女性にしか手の甲にキスなんてしないのに。
「何、その声……。せっかく誕生日を祝ってあげてるのに」
「あ、ああ、そう、誕生日、特別な日だものね?」
びっくりした。すでにマナー教育でリンクル殿下だってだれかれ構わずしちゃだめって習ってるはずなのに……。婚約者や家族以外の女性には……何か特別な理由がない限りキスしない。よほど、女たらしでなければ。
特別な理由……。
例えば、キスをする文化の国との外交。
あ、そういえば、今学んでる言葉の文化は挨拶で頬にキスする文化圏だったっけ。
なるほど。誕生日の祝いに手の甲にキスするくらい普通なのかな。
「プレゼントもあるんだ。王子である俺からのプレゼントなんだから、分かるよな?」
「え?プレゼント?」
殿下が、ポケットからネックレスを取り出した。
金の鎖につながれた、青い宝石のついたネックレスだ。
宝石は親指の爪くらいもあり、とても高そう……。
「こんな高価なもの、貰えませんっ!」
差し出された手をそっと押し戻すと、殿下は私をにらんだ。
「一生に一度の成人を迎える誕生日を、俺には祝わせてもらえないのか?王子は世話になっている教師をないがしろにする愚か者だと思われてもいいというのか?」
う。確かに、王族は臣下に働きに応じて褒賞を出すことも大切な仕事のうちの一つだ。
働かせるだけ働かせて何も返さない王に、誰が忠誠を誓うだろう。
ちゃんと働いた分は報われるということを日々示していかなければならないのだ。
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