第8話

「なんでも婚約者探しを本格的に始めるって話だ」

「それか。成人してから3年。遅いくらいだろう?こう結婚して子供の2,3人いてもいいくらいだろう」

 ……いやぁ、それはないんじゃないかな。

 成人してすぐに結婚している人がいたとしても、二十歳で子供2,3人って……。

「あはは、流石にそれは大げさだろう。好色王と呼ばれた8代前ならそれもあるだろうけど」

 そうか。別に一人の女性とは限らないんだ。

 王太子だもんね。正妃が王位継承権1位となる男児を産みさえすれば、側室を持つことができるんだもの。

 正妃が男児を産む前に生まれた子は、火種にしかならな……。

 ルゥイに視線を落とす。

 まさか……ね?

 もし、そんな子が生まれれば……。

 別の人の子としてひっそり育てさせるならいい。

 幽閉……下手したら、処分。

 ぞくりと背中に冷たいものが流れる。リンクル殿下がそんなことするわけがない。優しいあの子が。

「で、婚約者探しって、候補もいないっていうのか?だいたい上の方の貴族んとこの娘と結婚するんじゃないのか?」

「あとは隣国の姫とかだろうなぁ。なんでも殿下は流ちょうに3か国語を話すっていうだろ?」

 うんうん。7年間、週に4日の授業をかかさず行ったおかげで、リンクル殿下はみるみる言葉は上達していった。

 あれは……何歳の時だったかな。……そうだ。私が17歳の誕生日。

「王子、これで私は晴れて、大人となりました!もう、子供ではありません」

 いつものように、学習室に足を踏み入れると殿下は不貞腐れたように顔をそむけた。

「殿下、おめでとうという言葉をもう忘れましたか?」

「結婚は?」

「え?結婚は、ファールメリですよ。おめでとうがガットー。結婚おめでとうはガットー ラル ファールメリです。って、私は結婚するわけじゃないので、誕生日、ブルネラを使ってください」

「結婚しないのか?」

 殿下の言葉に首をかしげる。

「婚約者もいませんし、結婚の予定はありませんけど?」

「本当か?伯爵令嬢なら、成人を迎えたらさっさと結婚するもんじゃないのか?遅くても、20歳までには結婚しちゃうんじゃないのか?」

 首を横に振る。

「えーっと、他の令嬢はどうか分かりませんが……私はこうして仕事をしておりますから、結婚せずに仕事を続けて生きていくかもしれません……20歳を過ぎても……このままである可能性も」

 モテた記憶もないし。スタイルが取り立てていいわけでも、飛び切りの美人というわけでもない。

 そのうえ、女性らしくない会話を好むとなれば、男性から嫌煙されがちで……。

 取り立てて旨味がある伯爵家でもないので政略結婚申し込まれる可能性も低く……。

「ずいぶん年の離れた人とか後妻とか悪い噂のある人とかになるくらいなら、むしろ結婚しなくてもいいかな?」

 リンクル殿下が逸らしていた顔を私に向けた。

 それから、立ち上がると私の前に立つ。


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