第7話

「おい、勉強は?」

 リンクル王子は戸惑いながらも庭に出る。

「ヴァヴィア ルールイ フォル」

「は?」

「フリージアが咲いています。ヴァヴィア ルールイ フォル。ガリウ ルールイ フォル、ネモフィラが咲いています」

 リンクル王子が頷いた。

「ヴァヴィア、ガリウだな、じゃあチューリップは何という?」

「チュナップ」

「ふぅーん。じゃあ、チュナップ ルールイ フォル」

「チュナップ ルールイ フォル ビラル」

 リンクル王子が私の顔を見た。

「ビラルは綺麗という意味です」

「ふーん。チューリップが綺麗に咲いている……チュナップ ルールイ フォル ビラル……」

 そこまで口にしてから、リンクル殿下がにやりと笑って私を見た。

「シャリナ ビラル」

 へ?

 シャリナは綺麗って……。

 カーっと顔が熱くなる。

 綺麗なんてほめられたことがなくてびっくりした。

「あはは、さっき、俺のことかわいいなんて言ったお返しだ!」

「もうっ!大人をからかわないでくださいっ!」

「この国ではまだシェリルも子供だろ!俺と同じ子供だ!」

 もうっ!

 赤くなったほほを抑える。

 言葉の練習なんだから、人をからかえるくらい上達するならよしとしなくちゃ。

「殿下、綺麗……ビラルは美しい物に対する綺麗で問題ありません。我が国では他に綺麗を意味するものは掃除などで汚れがなくなった状態や、剣を磨いて傷のない状態も綺麗と言いますが、そちらの単語はアレッシュです。綺麗な剣はアレッシュ。では傷一つない綺麗な肌はどう表現すればいいですか?ちなみに、否定する場合はノントをつけます」

 殿下の手を見る。

「ノント アレッシュ……だよな」

 剣の練習を熱心にしているであろう手は豆ができて綺麗ではない。

「こっちはアレッシュだ」

 手のひらを反すと白く美しい手の甲が見える。

「ビラル……殿下の肌は美しいですよ」

「な、な、なんだよっ!貴族なんて水仕事してるわけじゃないから、みんな綺麗な手してるだろっ!シャリナだって」

 殿下が私の右手を取った。

「あっ」

 殿下が驚いた声を上げる。

「す、すまん……」

 慌てて殿下が私の手を離した。

「大丈夫ですよ。中指の先はペンだこができてるし、この小指の付け根のやけどの跡は、読書に夢中になりすぎて蝋燭の火に触れてしまったときのものです。気にしてないのでそんな顔しないでください。殿下は……シュッタですね」

「シュッタ?」

 優しい。


 殿下は今どうしてるのかな。


「聞いたか?リンクル殿下の話」

「どの話だ?この間の20歳のお祝いの話か?」

 びくりと肩が揺れる。

 殿下の噂話に思わず耳を傾ける。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る