第6話
「俺は他にもたくさん学ぶことがあって忙しいんだ。通訳が居れば問題ないんだから語学を学ぶ時間があれば別のことに時間を使う。こういうのをどういうか知ってるか?」
殿下が自信満々に口を開く。
「合理的って言うんだ」
その様子が、学んだばかりの合理的という言葉を使ってみたくて仕方がない子供っぽさに思わずつぶやいてしまう。
「キュラルア……」
バーサイ国で「かわいい」という意味の言葉だ。
そして、慌てて口を塞ぐ。
「キュラ……なんだ?今何と言った?」
殿下に向かってかわいいなんて失礼だったかな?
「キュラルアですわ。殿下」
「慌てて口を押えたな。どこの言葉だ?どういう意味だ?」
あら?これはもしや……。
「不敬な言葉を口にしたのだろう?それで慌てているんだろ!」
「首にしてくださって結構ですわ。キュラルアと言われたからシャリナは首だと」
殿下はすぐに部屋を出て行ってしまった。
……。さて、これで本当に首になってしまったらどうしようか。処罰まではされないと思うけれど。
部屋から窓の外を見る。
王宮の中庭は、いつでも美しく整えられているけれど、今の時期は格別だ。これから満開になる花々が、みずみずしく葉やつぼみを伸ばし生命力にあふれていて本当に美しい。
ぼんやりと眺めていると、顔を真っ赤にした殿下が部屋に戻ってきた。
「シャリナっ!お前、よくも……!キュラルアってかわいいって意味だってな!かわいいと言われたから首にするって言ったら笑われたじゃないかっ!」
顔を真っ赤にしている殿下もまた格別にかわいらしいと思ったけれど、これ以上殿下のプライドを傷つけるわけにはいかない。
10歳。子供扱いされたくない年頃なのだろう。かわいいを卒業してかっこいいと言われたいという。
「だが、シャリナ、お前の言いたいことは分かった」
殿下は驚いたことに私に頭を下げた。
「すまなかった。どうか言葉を教えて欲しい。その国の言葉を知らなければ行き違いが生じることを教えようとしてくれたのだろう。敵の息のかかった通訳の言葉が真実かどうか見抜けなければ、最悪戦争に発展することもある」
「頭を上げてください殿下」
外国語を学ぶことの重要性を説明しようと思っていたのに……。あれだけのことですべてを理解するなんて。
殿下は聡明な人なんだろう。
語学学習をしたくないと言った「他に学ぶことがたくさんあるから合理的に不要だと思うものは排除する」というのも本心で、嫌いだからとかやりたくないからという我儘からではないんだ。
「アルビオーノン」
「は?どういう意味だ?」
ふふふと笑う。
立派ですという単語だ。
「アルビオーノンな殿下、ではさっそく授業をはじめましょうか。護衛の皆様には申し訳ありませんが、お付き合いください」
そうして、殿下とともに庭に出た。
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