第4話

  っていうかさ……。この子、親の欲目とかでなく、天使過ぎるんだよね。

 顔が綺麗すぎる。

 高貴な血が絶対入ってるって顔してるんだよ。

「似てるよなぁ……どことなく……」

 リンクル王子と初めて会った10歳のころを思い出す。第一王女が12歳で、第二王女が7歳。第二王子が3歳だった。

 第二王子3歳に、似てるんだよね。

 ……あのときの第二王子に。

 王家の血……が入って……。

 ぶるると体が震える。

 ちょっとまって、待ってよ。えーっと。

 殿下がどこぞの女性に産ませた子供……とか、第一王女がひっそり産んだ子とか……。

 私がその秘密を知ってしまい、秘密裏に赤ちゃん抱えて王都を逃げ出した可能性?

 ゼロじゃない。

「この子を守って、お願い……」と息を引き取った実の母親。

 リンクル王子……王太子殿下のお世話素していた侍女たちを思い出す。

 その中で何人かは親しくしていた。その子たちの誰か?

 いや、殿下が安易に女性に手を出すだろうか?

 いや待てよ。

 確か、成人の義として、王族男子って……。女性の扱い方を学ぶ特別授業なるものがあったよね?

 ……隣国の王女様と結婚していたすときにうまくできなきゃ困るわけで……。

 あの式典の後に、女性の扱い方を学んだあと、理性が負けておいたをしちゃったとか?

 かわいかった王子が……。女遊びを……。

 複雑な気持ちになるなぁ。

 そりゃ、いつまでも子供じゃないよ。初めて会った時が10歳でも、最後に会ったのは17歳。成人したんだから。……今は、もう20歳かぁ。どうしてるんだろうなぁ。

 まぁ、とにかく、可能性はゼロじゃないよね。

 王家の血を引く秘密の子供。

 ……まずいなぁ。記憶がないのってすごく危険だ。

 誰がこの子のこと狙っているかも分からない。

 何かあったらどこへ連絡して、誰に助けを求めればいいかも分からない。

 うっかり敵に情報漏らしちゃうかもしれない。

「マンマ、マンマ」

 ルゥイが考え込む私のほっぺたをぺちぺちと小さなお手々でたたいている。

「あ、ごめん。お腹空いたね。ご飯ね、ご飯」

 職場である雑貨屋の営業は日が昇って1刻経ってから、日が落ちる1刻前まで。

 今日は店を閉めてから部屋でルゥイを遊ばせながら帳簿の計算をしていた。

 帳簿を店主……あの初日にルゥイを抱えて連れてきてくれた女性、マーサさんの元へと持っていく。

 夕飯の準備をマーサさんとする。その間ルゥイはマーサさんの14歳になる息子が相手をしてくれている。

 旦那さんは息子が小さいころに亡くなったらしい。それで同じような境遇にあった私に同情して助けてくれたみたい。たぶん。常連さんのおしゃべりなどから察するに。

 もしかしたら、単にとある事情で逃亡中の私の協力者なのかもしれない。

 王家の影と呼ばれる秘密組織の一員とか?実は護衛とか?

 ……小説の読みすぎかな。

 でも、可能性ゼロってことはないんだよね……。

 あー、もう、何が何だか!

 

 それから1週間がたった。

 もしかしたら、記憶喪失は一時的な物で、少しずつでも戻るかもしれないと思っていたけれどまったくその兆しはない。

 さらに、日記や手紙など記録はないかと思ったら全くなかった。

 そこがおかしいんだよね。

 私くらい読み書き好きなら、忙しい生活でも日記をつけるくらいはしてそうなのに。庶民の生活をしていても、紙と筆記具くらいを買うくらいの余裕はある。いや、ルゥイを育てるのに必死で余裕がなかった?

 目の前でほっぺたにパンくずつけてニコニコご飯を食べているルゥイを見てほっぺたが緩む。

 あー!かわいい!うーん、天使!やっぱり、いくら忙しくたってルゥイの成長記録は残すと思うんだよ!

 それがないのが不自然。

 それから、手紙もない。この3年の間に伯爵家がどうなったのか分からないけれど……。生きているなら庶民に落ちても手紙のやり取りくらいはするだろう。薄情な家族ではなかった。

 どちらもないということは、理由があるはずだ。

 手紙は、私の所在がばれるといけない事情があった。

 日記は誰かに見られると困ることをうっかり書かないようにつけなかった。

 このまま3年間の状況が分からないまま生きていくのは危険な気がする。

 

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