食堂の不思議

ある日、仕事で大きな失敗をしてしまって、ふとあの食堂のアジフライが食べたくなったので足を運ぶことにした。細路地を曲がると経験したことのない感覚に襲われた。視界がぐにゃりと曲がるような天と地が逆転するような、、、次の瞬間感覚が戻った。疲れてるのかな、そう思って歩こうとすると、気付いた。夕焼けが綺麗だったのに突然月が咲くように現れた。硬い土だった道に草木が沢山生えていた。いつもはすぐ着くのに、なんだかすごく遠くにあるように感じた。

走っていくと形はいつもの食堂だった。昼と違うのは、かき揚げそばのボードと営業中の板の代わりに長い暖簾がかかっているくらいだ。それなのに、取り巻く環境と不思議な感覚がどこか不気味な感じを醸し出している。入ってみたい好奇心と何となく入るのを躊躇するような勘がどちらも働きぶつかりあった。結局、好奇心に押し負けた。

「いらっしゃい。」

いつもの声がしてハッと顔を上げると、見た事のある目をした―フクロウがいた。

「えっ?」

と思わず声を漏らすと、聞き馴染みのある声で

「好きな席に座んな。」

と言われて、ますます混乱した。なんだか分からず席に着くと、

「で、あんたの依頼は何かね。」

私が固まっていると、大きな黒目をさらに大きく開いて、

「あんた、招かれないで来たのか。珍しいこともあるもんだねぇ。」

と言った。招かれる?仕事の失敗のショックでついにおかしくなっちゃったのかと思って目を擦った。赤く腫れただけだった。

「ま、いいわ。あんたもなんかあるんでしょう、悩んでることや叶えたい事がね。言ってご覧なさい。」

フクロウは、そう言った。悩んでることなら、まぁある、けど。なんで分かるのだろう。目の前で起きている信じられない光景そのものと見透かされているような目から不気味さが引き立っていて、少し身震いがした。でも、その不気味さの満ちた空気に吸い込まれるように話しだしてしまった。

気付いたらマシンガンのように話した私の望みをひと通り聞いた後、尋ねてきた。

「あんたはそれ、本気なのかい?」

「本気。」

すぐに答えると、フクロウはニッと笑って

「気に入ったよ、お嬢ちゃん。やれるだけ協力しよう。これを飲みなさい。それと、飲む前に、帰る方法を聞いておきな。」

そう言って出されたのは、不思議な液体だった。うっすらと紫と金の光を纏っていた気がした。帰るってなんだろう。でもそれよりも、初めて見る光る液体だったから、また好奇心に押し負けて口をつけた。味はコーンポタージュだった。しまった、聞きそびれた。そう思ったのも束の間、光に包まれたような心地がして、ぎゅっと目をつぶる。

コーンポタージュは、温かかった。


草原にいた。違和感が沢山あった。まず、夜なのにあたりが白い。フクロウも日の出までには帰るように、言っていたのに、これじゃあいつか分からない。

草原を一歩歩こうとすると、地に足がつかなかった。しかも背中に違和感があった。背中からなにか生えている。羽らしきものだ。つまり、浮いていた。

もうついに何が起きたのか理解出来る領域を超えてしまった。とりあえず、進もう。

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