第14話


 どうしよう……、いつ本について聞こうか。咲夜は、何者なのか。僕は、咲夜が好きだと伝えるのはいつにしようか。並んでる間、話してる間、そればかり悩んでいて、結局花火が始まる前まで来てしまった。

「蒼空くん、今日、楽しくなかった?」

「…なんで?」

「なんか、聞きたいこととか、ある?」

核心を突いた質問に、思わずたじろぐ。咲夜はどこか鋭くて、僕はいつもそれに驚かされる。

「ちょっと、ね…」

「花火まで動かないんだし、聞いていいよ。」

花火まではあと三分ほど。その三分で、僕は聞きたいこと、話したいことののすべてを聞いて、話せるのだろうか。

咲夜の正体について、僕の気持ち、本について。聞きたいことはたくさんあるし、話したいこともたくさんあるのに、何から話したらいいか分からない。

そんな風に立ち止まる僕を、咲夜は導いてくれる。


「…好きなように話して、蒼空くん。」


「不思議な本を、持ってきたんだけど。」

カバンの中から取り出したのは、一冊の本。僕が検索しても出てこなかった、謎の本。

「読書感想文、本当はこれにしたかったんだ。」

「すればよかったのに……」

悲しそうな顔をして咲夜が言うけれど、僕だって検索結果がノーヒットじゃなければ、読書感想文の題材にしたかった。

「検索しても出てこなかった。」

「…そうなんだね。」

どこか納得したような顔をした咲夜に、僕の中にあった予想は確実に変わった。

「それで、なんだけど…」

「蒼空くん…?」


「咲夜、君は…未来から来たの?」


真意を突かれたような顔で目をまん丸に見開く咲夜に、胸が締め付けられた。

「…だけど、僕は咲夜が」

「待って!」

伝えようとした想いを、声を、止められた。こんなことは咲夜と出会ってから初めてだった。

「…それは、言っちゃ駄目。」

「なんで……」

追いつけない僕に、咲夜は悲しい笑顔で言った。

「…それを言うと、私は消えてしまうから。」

「………なんで、」

もう…なんで。としか言えなかった。僕は、こんなにも君に救われたのに、君に惹かれたのに、その想いを伝えることさえ叶わないのか……。

「あのね、私……、その本に呼ばれたんだ。」

「……本に、呼ばれた??」

この本は、僕が吸い寄せられるように手に取った…どんなに検索しても出てこなかった本。

「蒼空くんのおかげで、私は生きているんだよ。」

「僕のおかげ…?」

もう、わけがわからない。僕が想像していたよりもずっと、僕らの関係性は複雑で。どう足掻いたって続かない関係性ということを思い知らされる。

「…私はね、蒼空くん。」


────君の持っているその本から来たんだ。

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