第13話
待ち合わせ場所に向かうために電車に乗れば、そこには浴衣姿の人が既に何人か乗っていて、神社の最寄り駅に近付くほど浴衣は増えていった。
待ち合わせ場所に着いたのは約束の十五分前。もし咲夜が早く来ていたら、またせることになると思って早めに来たけど、咲夜の姿はまだない。外で遊ぶというのに飲み物を忘れてしまったから、自販機で買って待っていることにした。
自販機で飲み物を買って五分ほど経った頃、浴衣姿の咲夜は待ち合わせ場所に現れた。
「ごめんね、待った?」
「いや、そうでもないよ。」
下駄を鳴らしながら歩いてくる咲夜は、いつもと雰囲気がまるっきり違っていた。いつも下ろしている髪が、上でお団子になっていて、とても……、
「お団子…似合ってるね。」
「そう?ありがと!」
雰囲気は違えど、コロコロと笑う姿はいつもの咲夜だった。
「着てるものが違うだけで緊張するね」
「僕も、すごい緊張してる。」
僕だけが緊張しているみたいに感じていたけれど咲夜も緊張していたことを知って安堵した。
「じゃあ行こう!」
「そうだね、今から行ってちょうどいいか。」
時刻は三時半を過ぎた頃。今からゆったり神社に向かえば、ちょうどいいだろう。二人共浴衣を着ているし、咲夜に関しては下駄だから、ゆっくりと向かっていくことにした。
神社に着くと、四時前に着いたというのに人があり得ないほどいた。屋台の最終準備をする者。友達と無事会えて喜ぶ女子高生と思わしき人たち。手を繋ぎながら神社の方へと向かってくるカップル。その他様々な人に囲まれ、揉まれ、既に人酔いしそうな程だった。
「蒼空くん、大丈夫?」
「うん、人、多いね。」
気にかけてくれた咲夜も、人の多さに固まっている様子だった。とりあえず、混む前に、買っておこうか。とあらかじめ話していた買いたいもの、食べたいものを言い合いながら鳥居の奥に進んでいった。
一通り食べたいものは変えたから、少し休もう。と休める場所を探すと、境内の裏の方に、ポツリと置かれたベンチを見つけた。神社は木が多いけれど、裏だけは開けていて、景色も綺麗だった。
「もしかしたら花火の特等席かもね」
「うん、けど、花火の前に射的とかやるからね!」
そんな会話をしながら、食べ物を広げて、頬張っていく。結構買ったけれど、食べ切れるのだろうか。
「食べ切れるの?」
「蒼空くんも食べるんだよ。」
「僕も食べるにしても多くない?」
僕も咲夜もフードファイターなんかじゃないからこんな量食べきれる気もしないけど、祭りに行ってくるから夕飯は要らないって行っているし、本当に余ったら持って帰ることにしよう。
「余ったら分けて持って帰ろうか。」
「うん!」
祭りはまだ始まったばかりだ。
君と僕とひと夏の記憶 夕凪 @matu_kaze
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