第12話
祭りの前日。僕達はまた図書室に集まっていた。集まる理由もなく集まって、話したり、遊んだりを繰り返していたから、もはや行くことが当たり前のようになっていた。電車で学校に行って、夕方帰る度、僕が読む本はストーリーが進んでいく。
今僕が読んでいるところは終盤手前のシーン。早く展開が知りたいけれど、飛ばせるはずもなく、ゆっくりと、文字を目に、登場人物の心情を心に、焼き付けるように読んでいく。
なぜか…そうしなければいけない気がしたから。
祭りのときに、咲夜に聞いてみたい。あの本は実在するのか。実在しないとしたらなぜ僕が持っているか。咲夜の知識と意見を聞いてみたかった。
僕に人を話だけで盛り上げるような話術は無いし一つの話題として持っていていいかもしれない。
その代わりに祭りに持っていく荷物が本の分だけ重くなるけどそれでも僕は、聞いてみたかった。
今日集まって話したのはどこに集まるか。神社の鳥居とかは他にも人が待ち合わせをする場所に選びそうだから、という理由から、神社の最寄り駅の改札口で集まることにした。
「私、今日眠れないかも。」
「寝ないと途中でバテるよ?」
夜とはいえ夏だから、気を抜けば熱中症になるだろう。地域最大のお祭りなんて人もおかしなくらいいるだろうし。
「とか言って蒼空くんも寝れないんじゃないの?」
咲夜が意味ありげな笑みを浮かべて聞いてくる。そんな顔で聞かれたら、僕の弱すぎる意思は簡単に曲げられてしまう。そんなことないと言えるはずなのに、もしかしたら僕も楽しみにしすぎて、不安になりすぎて寝れなくなるかもしれないと思った。
「そんなこと……、あるかもしれないね。」
「二人でちゃんと寝ようね?」
「そうだね、しっかり寝よう。」
前日ということもあり、二人は早めに解散した。
翌日、目を覚ますと午前十時だった。いつもより全然遅い。昨日、日付が変わる頃まで眠れなかったからだろうか。待ち合わせは三時半。全然間に合うけれど、どうにもソワソワとしてしまう。
浴衣の着方はインターネットで調べて、動画を見ながら練習したけれど、結局よくわからなくて、兄さんにメールでこっそり聞いて、教えてもらった。
そのおかげもあって、浴衣はパッと着替えられるようになったから、良かったと思う。
それに兄さんと繋がりのようなものがちゃんと見えて、それだけで僕は救われた。兄さんとの距離には理由があって、兄さんは僕をちゃんと大切に思ってくれている。その事実が僕を心強くした。
それとともに、兄さんと話すことが増えて。話すと言ってもメールだけど、恋バナなんてものを兄弟でするなんて思ってなかった。兄さんからはしょっちゅう、『女の子と進展はあったか?』と連絡が来るし……けど、正直楽しい。兄弟ってこういうものだと思ってた。僕の理想、小説のような兄弟。
兄さんと恋バナをしていて気が付いた。最初はそんなんじゃないと否定を続けていたけど、今はもう気付いてしまった。抑えきれないこれは恋だと。内気な僕をどこまでも突き動かすその原動力は恋だ。
僕は、お祭りの最後、咲夜に告白をする。
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