第9話

 

 次の日は、電車で学校に向かった。もちろん、寝坊はしていない。電車の中で例の不思議な本を開いて、曲を聴きながら読み進める。


「やっぱり付き合ってんじゃないの?」

「…そんなことないよ!ただの友達だもん。」

「……ただの、友達か、」


 今読んでるシーンは、付き合ってるんじゃないかという噂がたって、それをクラスメイトの一軍と呼ばれるような女の子に問い詰められるヒロインのシーン。ヒロインはただの友達と弁解し、それによって主人公とヒロインの距離が離れてしまうという一番大事なシーン。主人公はただの友達なんて思ってない。なのに、ヒロインにそんなこと言われて。

絶対に悲しい。僕だったら耐えられないと思う。好きな人なんてできたことないけど。


─────次は、終点、終点です。


 ハッとして本をしまう。いつも一駅前には閉まってるのに、夢中になりすぎてしまった。本を大急ぎでしまって、開き始めたドアから急いで降車する。

 学校に着くと、今日もまた咲夜は図書室にいた。

流石に八月前ともなると、暑さが厳しい。

「おはよう。」

「おはよ!今日こそ読書感想文ね!」

元気な挨拶とともに振り向く咲夜に、暑さが飛んでいくようだ。

「そうだね、何の本がいいかな。」

「書いてみたら?」

「それじゃあ筆者の感想になっちゃうでしょ。」

「確かにそうかも。」

そんな軽い冗談のようなやり取りをしながら、原稿用紙とルーズリーフを一枚取り出し、感想文を書く準備をする。

「読んだことある本にしようかな。あまり時間はかけたくないし。」

「その方がいいかもね。」

 準備が終わって二人で図書室をまわる。ケータイ小説の恋愛ものとか、青春っぽいものだったり、思春期の葛藤と成長を描いた物語の方が、感想文は書きやすい。ただ、それは最近ありきたりすぎて、読んでもつまらない感想文になってしまう。ここは敢えて、日本の不朽の名作。なんて呼ばれるものの感想文なんかもいいかもしれない。

「ねえ、純文学でもいいんじゃない?」

そんなことを考えていると、咲夜から似たような提案をされて、驚いた。

「僕もそう思ってたところなんだ。」

「じゃあ純文学から探そう!」

そんな感じで決まった本をもう一度軽く読み直して、感想文のプロットを書く。書きたいことをしっかりと書けるように要点をまとめ最終的な感想にうまく持っていけるようにする。

「…すごい。本格的だね。」

「まあね、ちゃんとやらないと怒られるし。」

父さんは、完全理論型だから、しっかりこういうことをやって書きなさいといつも怒ってくるし、何もまとめずに書いたレポートや作文などは、すぐにバレてしまう。

「そっか、えらいね。私だったら面倒くさくてやらないよ。」

「そうだね、僕もやりたくないな。」

結局まとめた方が書きやすいから書いてしまうけど、思うがままに感想文を書いていくのも楽しそうだ。そんなことを考えながら感想文を書き始める。人に見られながら書くのは緊張したけど、咲夜と過ごす時間は不思議と心地よくて、あっという間に終わってしまった。

 今日はそのためだけに来ていたから、他に勉強道具は持ってきていない。丁度昼前だからといって二人で早めの昼ご飯を食べた。咲夜の提案で、今日は勉強じゃなくて遊ぼう!ということになって、僕たちは学校から出た。

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