第8話

 もう少しで日が暮れてしまう頃、僕達はまたいつものように帰ろうとしていた。けど、今日はいつもと違った。

「あれ、自転車?」

「寝坊しちゃったから。」

そう、僕が今日は自転車だったのだ。咲夜はそれに興味を示したらしく、僕の自転車をまじまじと見つめている。

「どうかしたの?」

「…後ろ乗ったりとか、青春みたいだなーって。」

確かに、僕も小さな頃は、小説に出ていたワンシーンのように、自転車を二人で乗ってみたいと思っていたけど、僕にそんな相手できるはずもなかった。

「…乗る?」

何を言ってるんだか僕は。家の方向だって逆なのにそんなことできるはず無いだろう。

「…うん!乗りたい!」

「え、でも家の方向……」

「いいよいいよ、夏は冒険しなきゃ!」

冒険………、僕にもしたことない、二人乗り。いつもなら、ここで引いてしまうけれど、咲夜となら何でもできる気がする。咲夜となら、二人乗りだってできる気がする。僕はそんなように思った。

「じゃぁ、冒険しよう。」

そう言って、自転車に跨る。すると、咲夜が後ろに乗ってきた。タイヤが沈んだ感覚がするけれど、全然重くない。しっかりと乗れたか確認して、ゆっくりと漕ぎ出した。

「重たくない?」

後ろから気遣うような声が聞こえる。

「全然大丈夫だよ。むしろこんなに軽くていいのかってくらい軽いし。」

「そっか、ねえ、坂とかある?」

坂………、坂なら今朝、僕が苦しめられた坂があるじゃないか。

帰り道だからくだるだけだし、一緒に坂を下るのも青春らしいし。

「あるよ、行こうか。」

「うん、あと駄菓子屋さんとコンビニと、公園と…」

「ちょっと多くない?」

「今日一日で全部は無理だよねー。」

流石に無理だ。日はいつまでも出ているわけじゃないし、あまり遅いと、咲夜の家族も僕の家族にも心配されてしまうだろう。

「とりあえず、今日は坂にしよう。」

「また楽しみ増えるしね!」

 二人でそう話し合いながら、二人の乗った自転車は坂の方へと向かっていく。咲夜も坂を見つけられたのか、テンションが上がった様子で聞いてくる。

「あ、この坂?」

「そうだよ、落ちないようにね。」

ついに坂の手前まで来たので、気をつけるように言うと、後ろから身体に腕が回された。

「…え、っと?」

「これなら落ちないでしょ?」

回された腕をみると、細くて折れてしまいそうな腕と、手が小さめの僕よりも小さい手。

「…うん、掴まっててね。」

正直いえば、女子とこんなに密着したことはないし抱きつかれるなんて思ってなかったから、かなり動揺しているけど、それで落としてしまうなんて事があれば大惨事だ。

「…行くよ。」

「…うん!」

足に力を込めて、坂に突入する。少し急な坂なのでしっかりとブレーキを握って、後ろからは咲夜が僕のワイシャツをを握って、駆け下りていく。

「すごい………!!」

「咲夜、大丈夫?」

「うん、すっごく楽しい!」

「僕も楽しいよ。」

 坂を降りきって、ゆったりと漕いでいく。そこで気づいた。咲夜はどう帰るのだろうか。

「帰りはどうするの?」

「あ、それなら自分で帰れるから大丈夫。」

「どこで降ろしたらいい?」

「んー…向こうの方で降ろしてくれたら。」

もう一度坂をのぼって帰るわけじゃなさそうだ。それなら安心かもしれない。もう一度一人でのぼって帰るのは大変だし、坂をわざわざ降りたあとにのぼるなんて僕は面倒だと思ってしまう。

 しばらく漕いでいると、咲夜からここでいいよ。と言われたのでそこで降ろす。

「ごめんね、付き合わせちゃって」

「別にいいよ。」

「じゃあ、また明日ね。」

「うん、また明日。」

 僕は自転車を方向転換させて、来た道を少し戻り、それからいつもの道を通って帰った。

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