第7話

 昨日は、夜遅く…深夜二時過ぎまでずっと勉強していたから、起きる予定の時間より三十分程遅く起きてしまった。自分一人ならどうでもいいけれど、咲夜と過ごすのであれば話は別。昨日も咲夜は校門の前で待っていてくれたのだ。僕は朝ご飯を急いで食べ大急ぎで支度する。電車を待つのも惜しくて、自転車に乗り漕ぎ出した。

 学校へは普段自転車で行っているから道に迷うことはなかった。でも、夏休み前は雨が多くて、電車で行くことが増えていたから、すっかり忘れていた。いつも電車から見える、見るからに辛そうな坂が通学路だということを。

 坂をのぼった後は平らでなだらかな道。坂をのぼったことにより重たくなった足に力を込めて、全速力で学校へと向かった。

 校門に、咲夜はいなかった。もう少し早く眠ればよかったと後悔しつつ、図書室へ行く。咲夜がいなかったのは自分のせいだし、だからといって勉強をやらない理由にはならないから。

「え…」

扉を開けていつものように奥まで進むとそこには。

「おはよー、暑すぎて中入ってた!」

「…なんで」

 咲夜がいた。特に何も気にしていないと言うような明るい笑顔で咲夜は居た。

「…寝坊?」

「そう、だけどそうじゃなくて、なんで遅れたのに咲夜がいるの……。」

「え、だって課題やるんでしょ?」

「…やる、」

じゃあやろう!と楽しそうにする咲夜を見ていたら申し訳無さも消えてしまって。じゃあそれでいいかと思ってしまった。

「とりあえず、科学レポートやらないと。」

「どんな題材にするの?」

「決めてない、何がいいかな。」

 咲夜となら、一人じゃできないような実験もできなくはない。ただ、ここは図書室だし、無難に何か図鑑とかから探してみても良いかもしれない。図鑑は好きじゃないけど、仕方ないだろう。考えていると、咲夜がちょんちょんと肩を叩き呼んできた。

「玉ねぎの涙が出ない方法なんてどう?」

流石に幼稚すぎる気がするけれど、せっかく出してくれた案なら参考にはしたい。

「流石に幼稚すぎじゃ、……あ。」

「何か思いついた?」

「冷やすと涙が出なくなるのはなぜか、とか。」

「え、めっちゃいいじゃん!DNAとか繊維とか、高校の分野から切り口開けそうだね!」

 昨日まであんなに決まらなかった題材はあっという間に決まって、インターネットや図鑑、繊維や分子原子などを調べつつ進めること二時間。

 レポートという強敵は無事倒すことができた。

「はぁ…流石に疲れるね。」

「蒼空くんお疲れ様、飲み物買ってくるね。」

そういって席を立つ咲夜。咲夜だって一緒に調べてくれたのに、休んでて、と行ってしまった。

 咲夜が買ってきたのは二本のいちごミルク。

「…なんで二本?」

「一緒に飲もうよ!…あ、苦手だった?」

「いや、別に…あんまり飲まないだけだよ。」

家が基本的にお茶と水、パーティーのときだけオレンジジュースとリンゴジュースというような家だから、僕にとっていちごミルクなんてものは縁遠い飲み物だった。正直、味すらあまり覚えていないからほとんど飲んだことはない。

「…どう?」

「うん、美味しいよ。」

「良かった。お昼も食べちゃおうか。」

その合図を皮切りに、二人で食べる。僕は、おにぎりを二つ。咲夜は可愛らしい赤いお弁当箱におしゃれな盛り付け。一緒に食べるには少し気後れするような組み合わせで黙々と食べ、いちごミルクを飲んでいく。

 やがて、お昼休憩は終わり、というような雰囲気になってきた頃、咲夜は口を開いた。

「読書感想文、何の本にするの?」

「…どの本が良いかな。」

こちらもレポート同様決まっておらず、さっきと同じようにアドバイスを求めた。

「ちょっとー、小説家志望が何言ってるの。」

小説家志望……って、

「なんでそれを…」

誰にも言ったことなかったのに。ずっと一人で抱えてきた夢を、否定されるはずの夢を容易く口にしてしまう君は、一体何者なんだ。

「…あ、なんなら書いても良いんじゃない?」

「…書くなんて、完結させたことないし。」

「ふーん、じゃあ書いたことは、あるんだ。」

図星である。完結こそさせたことないものの、何作かは書いたことがほとんどがプロローグとかほとんど設定のようなもの。そんなもの無理だ。

「好きな本選べばいいじゃん。」

「…それもそうだね。」

一瞬、リュックサックの中に入っている不思議な話題作が気になったが、咲夜に連れられて図書室の本棚へ行った。

 ただ、行ったは良いものの、惹かれる本なんてない。あの本の他には。

「んー…今日は復習にしよっか。」

結局、本を探すことも、読書感想文もすることができずにその日は数学の復習をして終わった。

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