第5話
咲夜の話は僕に比べればすごく短かった。咲夜は小さい頃から周りに持て囃されて、可愛い可愛いと愛でられて。可愛くないといけなくて好きなこともできない。もっとかっこいいものが好きだし、もっとふざけたり笑い合ったりしたい。でも、家も周りもそれをさせてくれない。そんな人生だった。
そんなときに出会ったある人に救われて、でもその人とずっと一緒にいることは叶わない。家も周りもそんな人と関わるな、と止めてくる。
「自信満々に聞いてって言ったのに、あんまり話すことなくて自分に驚いてるよ。」
「そんなことないよ、」
「でも、蒼空くんの方が大変でしょ?」
…僕が言っていいのか分からないけど、咲夜は咲夜なりに悩んで苦しんで生きている。
「僕なんてやりたいことなんてないし、今みたいに好きって言える人、すごく頑張ってると思う。」
「…そう、かもしれないね。」
僕は、自分に自信を持てないけど、自分のことを好きになれないけど、咲夜には自信を持ってほしい。他の人と話すときも、僕に話すときみたいに、ちょっと独特な価値観とか基準で、明るく話してもいいだろうに。なんでダメなんだろう。
「「なんでかな。」」
不意に出た言葉が偶然重なって申し訳なく思う。
「…あ、ごめん。」
「なんで謝るの?被るなんて面白いじゃん。」
やっぱり咲夜はよく分からないけど、咲夜の考え方は不思議と前向きになれた。もしかしたら、確証なんてないけど。咲夜自身が前向きになるために身につけた考え方なのかもしれない。
そう考えたら、僕の悩みなんてちっぽけなんだろうなと思った。けど、すぐにその考えをやめた。【なんて】って思うくらいなら、僕は僕なりに悩んでいる。それだけでいいじゃないか。と思った。
未来は今と変わっているかもしれない。なら、夢を掲げてみたらどうだろう。咲夜に夢はあるのかな。
「咲夜は、夢とかある?」
「随分突然だね、けど、あるよ。」
「ごめん、気になって。」
脈絡がなさすぎて困るだろう。僕の脳内で完結しているから、咲夜には何もわからないはずなのに、なのに話そうとしてくれる咲夜は優しい。
「…髪を切りたい。かっこいい服を着てみたい。」
「それは…」
「別に中身が男ってわけでもないよ、ただ………」
「ただ?」
「好きなものを好きって言いたい。」
そう言った咲夜の目は今までのどんなときよりも輝いて、その目でみている景色が気になった。
叶うなら、その景色をみたいと思った。出会ってわずかニ日なのに、なぜそこまで惹かれるか、僕には分からない。でも、みれる気がした。
「蒼空くんはある?」
「…さっきまで無かったけど、今は咲夜の夢を叶えることが夢、かもしれない。」
「そんなんじゃだめだよ、自分のことにして。」
時々、手厳しいことを言う咲夜。でも、言うときは本当に良くないと思うことだけだった。
「じゃあ、僕も好きなものを好きって言いたい。」
「まぁ今はそれでいいでしょう!」
どうやら咲夜のセーフラインに入れたようだ。
歯止めが効かなくなった僕達は、課題や読書感想文なんてそっちのけでひたすら話した。
「蒼空くんの好きなものは?」
「読書、あとは、物語とかを書くこと。」
「小説書けるってこと?!」
「まぁ、完結させたことはないけどね。」
「私はね、ズボンとか、キャップとか、かっこいいものが好き。もちろん可愛いのも好きだよ。」
「なにか着てみたい服とかは?」
「ライダースジャケットみたいなものとか?」
「いいんじゃない?」
「ほんと?!」
互いの好きなものについて話したり。
「そういえば好きな小説は?」
「恋愛小説とか、ケータイ小説とかかな。」
「じゃあコレは知ってる?」
「あぁ、知ってるよ、それ面白いよな。」
「そういえば、僕もあんまり着ることないけど、ライダースジャケットとかなら持ってたな。」
「ほんと?みてみたい!!」
「夏場は流石に暑くて倒れるよ。」
「…確かに!」
互いの好きなものに共感したり。
そうやって過ごす夏休みの一日は僕にとって初めてで、とても楽しかった。夕方、最終下校時刻前に校門を出て別れるのが惜しくなる程には。
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