第3話
僕は課題と昼食を持って出かける。昨日は急遽昼食が必要になって食堂で買った。まぁ昨日までは昼過ぎには飽きて帰っていたから仕方ない。
電車で本を開く。本はもちろん昨日どう調べても出てこなかったあの本。電車で読むと酔う人もいるらしい。本好きだからなのか三半規管がバグを起こしてるのかはわからないけど、僕は逆に読んでる方が落ち着く。今日のうちに序盤部分から抜け出せるといいな。本を読むスピードは遅いから、昨日読み始めたけど全然進まない。それでも本が苦手な人よりは速いからびっくりする。
学校に着くと、校門で咲夜が待っていた。
暑い中待っていたのだろうか。
「おはよう、蒼空くん!」
「お、はよ…、暑かったでしょ。」
「うん、それに声かけられまくっちゃった。」
それもそうだろう。明らか他校の制服に美少女とくれば部活の男子たちはこぞって声を掛けるだろう。
「とりあえず行こうか。」
「そうだね、図書室で涼もう!」
きつかった。昇降口に向かうまでの生徒たちからの視線に、昇降口から図書室に向かうまでの生徒たちからの視線。それに加えて声を掛けてくる生徒たち。冗談じゃなく死ぬかと思った。なのに咲夜に関しては別に平気です。という顔で歩いていたし、後半はずんずんと進んでいく咲夜についていくのが精一杯だった。
「いやぁ、図書室は涼しいね」
あんなに注目されたあとだというのに、そんな呑気なこと言えるのか。僕なら無理だ。
「あの注目は浴びたくない…」
「まぁちょっと注目浴びすぎたね~」
ちょっと、、、ちょっと?!アレでちょっととかおかしいでしょ…基準がバグっている……。
そもそも今日の本題はこれでは無い。読書感想文の本を決めるために学校に来ているのだ。僕達が今いる図書室は純文学やミステリー、最近のライトノベルや話題作なんかも置いているから、何かしらいいものは見つかるのではと思っている。
そういえば、昨日から気になっていたことを聞いてみようか。読書感想文の本を選ぶきっかけになるかもしれないし。
「咲夜は、本ってよく読むの?」
「んー、あんまり読まないけど詳しいよ!」
「読まないのに詳しいの?」
「遠い知り合いが本好きなんだ。」
遠い知り合いの尺度がよくわからないけど、咲夜にとって遠い知り合いはもしかしたら僕にとってはクラスメイトくらいかもしれない。
「蒼空くんは本が好きなの?」
「うん、よく読むよ。」
「ねぇ、なんで好きなの?」
なんで、なんで好きなんだろう。どうして僕は本が好きなんだろう。国語が好きだから?読むのが楽しいから?いや、違う。…僕が本を好きな理由はそんな明るいものじゃない。
「現実逃避、できるから。」
「別に現実逃避しなくても生きていけるよ?」
「僕は自分自身のことが嫌いなんだ。それに、こうだったらいいなってモノは本の中にあるから。」
「ねぇ、今日は課題やめよう!」
「え…?」
「今日は蒼空くんのこと、教えてほしい。」
あまりに咲夜が真剣に言うから、僕はいつかのときのように頷いていた。
それから、僕は咲夜にいろんなことを話した。学校に友達がいないこととか、家族のこととか。話し出してみればそれは言葉として紡がれることを待ち望んでいたかのようにするすると出てきて、余計に自分のことが嫌になった。けど、咲夜が隣でずっと聞いていてくれるから、咲夜が望むなら。その一心で僕は慣れないながらもたくさん話をした。
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