第2話


──────待ってたよ、蒼空くん。


 なんで初対面の人が僕の名前を知っているんだ?

それにしても随分と整った顔。この学校にはこんな人はいなかった。それに違う制服は明らかに違う学校の人のはずなのに、なんで僕の名前を知っている…?クラスでもすすんで空気になろうとするようなタイプの、頭脳もそこそこの自分の名前を。学校で一番イケメンの人とかの名前なら知っていても仕方ないかもしれないけど、そもそも近くの高校はこんな制服じゃないからそれもあり得ない。だめだわからない。


 目の前でぽかんとしたまま固まった僕に痺れを切らしたのか、彼女が椅子から立ち上がり、僕に近づいて話しかけてきた。

「私は咲夜、君の未来を変えにきたんだ。」

ますますわけが分からない。まずなんで苗字言ってくれないのだろうか。

「えっと、苗字は……?」

「別に要らないよ苗字なんて、下で呼んでよ。」

「さ、…咲夜、、?」

「うん、中々いいね!」

なんとも掴めない人だ。それに強引である。女子の名前なんて下で呼び捨てしたことなんてない。

 それに、咲夜は僕の未来を変えにきたと言った。この人は未来から来たんじゃないのだろうか。とか本好きなあまり非現実的なことを考えて現実逃避しようと試みるが、目の前の存在はそれすら許してくれないらしい。

「これから勉強でしょ?教えてあげる。」

「あ、うん…」

あまりにも無邪気に、そして強引に聞いてくるものだから思わず頷いてしまった。

 

 驚くほど分かりやすかった。そこらの先生なんかよりも全然教え方が上手い、それでいて自分の学力を自慢するわけでもなく、分かりやすく教えてくれる。それに昼休憩を取ったときも話の展開の仕方や話題の作り方も上手くて勉強が終わる頃にはすっかり仲良くなってしまっていた。というか、これは仲良くさせられた?

「その、咲夜、今日はありがとう。」

「んーん!蒼空くんの未来を変えないと!」

今日何度か聞いたそのセリフは何なんだろうか。

聞いてみるのもなんだか怖くてやめてしまった。

「ねぇ、蒼空くん。」

「…なに?」

「また明日も来る?」

今日、ほとんどの課題は終わってしまったけど、このままはいさようなら、なんて無情なことをできるわけでもなく。明日からは面倒な科学レポートとやるのは好きだが時間がかかる読書感想文をやることにしよう。

「うん、明日も同じ時間に来るよ。」

「良かった、待ってるね。」

 もうすぐ日が暮れる。部活動生徒もちらほらと帰り支度を始めている。校門が施錠されてしまう前に帰らなければいけない。

 一緒に西校舎から昇降口まで歩いて校門を出て歩き出して気が付いた。必ずしも同じ方向に帰るわけじゃない。流れるように反対に歩いていく咲夜にもう一度引き止める勇気なんてものは無くて、そのまま日が暮れはじめた街を歩いていった。


 家につく頃には日はすっかり暮れていて、どこかくたびれたような空模様をしている。

帰りの電車で読書感想文の本はなににしようかと色々な本のレビューとか、話題作一覧とかを見てみたけれどあまりピンと来るようなものはなかった。その中でも何作か選んで明日の準備をする。

 ただ一つ不可解なのは話題作一覧を見ても、本を検索しても、僕の今読んでいる恋愛小説はなかった。話題作コーナーから取ったはずなのに、話題作一覧に載っていない本。検索しても『一致する情報は見つかりませんでした。』と表示されるのみ。

 明日あたり本については咲夜に聞いてみてもいいかもしれない。ところで咲夜はよく本を読むのか。よく読むならどんなジャンルが好きだろう。

「……あれ」

もしかしたら…いや、もしかしなくても、僕は咲夜に会うのを楽しみにしている?


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