第28話 デート!
漠然とした意識、ぼやけた視界で瞬きを繰り返すと目の前にれんの顔があった。
「れんだ」
にへらと笑う。れんは恥ずかしいのか目を逸らす。その動きはしゃっきりとしていて、わたしより前には起きていたことが察せられた。れんは大抵、わたしよりも先に目覚めている。流石、毎日朝練をこなしているだけのことはある。
そう言えば、今日は朝練は……? て考えて、時計を見て、そこに表示された日時から、今日は日曜日で、れんとデートに行く日だと思い出す。
「ごめん、起きるの遅くなって」
「ううん、大丈夫」
そんなやり取りの後、二人でベッドから起き上がる。
「じゃあ、準備してくる」
そう言って、れんは足早に部屋を後にした。わたしはそんなれんを見送って、自分も支度へととりかかった。
朝の準備を一通り終えたわたしはいよいよ、クローゼットの扉を開け中から真っ白なワンピースを取り出す。大きく息を吐き、それから意を決してさらさらとした感触に袖を通す。いつもの寒色系の服とは違い、純白に包まれた自分。鏡で髪型も含めておかしいところがないか確認する。
似合ってるって自信はないけど、おかしいところはないはず。
カバンを手にかけ、意を決して部屋を出る。
すると廊下で、ばったりと、れんと出会う。
予期せぬ遭遇にお互い固まる。れんの視線が上から下へと舐めるように動く。わたしは、その視線の動きに、心臓が爆発しそうになる。似合ってるか不安で今すぐ逃げ出したくて、しかしれんは石のようにその場に固まって、何も言ってくれない。
無限にも感じられる静寂。ドクドクと心臓が鳴る中、唐突にれんの呟きが耳を撫でた。
「かわいい」
ぼそっと、聞こえるか聞こえないかの音量で。手を口に当てて。その仕草でお世辞を言っているわけではないとわかって、ほっと胸を撫でおろす。それからじわじわと、身体の奥底から突き上げるように喜びが湧いて出る。
「ありがとう。れんの服もかわいいし、かっこいい。とっても似合ってる」
れんの身体を包むのは千鳥柄のブラウスと黒色のスカート。そのモノトーンで纏められたシンプルな着こなしがスタイルの良さや整った顔立ちを強調していて素敵だった。さりげなく施されたメイクも各パーツの魅力を最大限に引き出していて文句のつけようがない。正直、久しぶりに見たお出かけモードのれんは、少し気おくれしてしまうくらい可愛くて、綺麗で、それでもそんなれんに褒めてもらえただけで、気分は晴れやかだった。
「あんまり褒めないで。はずかしいから」
そう言って、顔を逸らすれんの様子もかわいくて、大人っぽいスタイルとのギャップに胸を掴まれる。なんだかんだ当日が来れば、れんとの久々のお出かけに浮かれている自分がいた。
「それじゃあ、行こうか」
わたしは弾む鼓動そのままに、廊下を歩きだす。
キッチンから居間に抜けると、お母さんが掃除をしていた。
「あら、今日は二人でおめかししてどうしたの?」
目を丸くして、そんな風に声をかけられる。
「今日はれんとデートなの!」
純粋な熱に浮かされて、思わずそんな言葉が口からついてでた。
「あら珍しい。気を付けて行っておいでね」
お母さんはそう言って微笑んだ。
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