Case-003 Combat Ghost
01
焼け付くような殺人衝動を己の内に感じる。
雨が降り続いている。表通りを走る車のヘッドライトが切り裂くように路地を照らす。人通りはない。ここならば殺せると、極端に薄まった理性で辛うじて判断する。
高度に電子化した全身が、周辺のカメラの位置を探り当て、映し出される映像を予測して表示させる。音響センサー、光学センサーの類はない。神経質なまでに周辺の警戒をするのは、生前の俺の習性なのだろう。自分を抑制し、確実に目的を達成する。だが、ああ、耐えきれないほどの、狂おしいほどの衝動が、理性や感情の一切を吹き払おうと荒れ狂っている。
まだか。
早く来い。
圧力が高まり続ける気体を、無理やり器の中に閉じ込め続けているような気分だ。暴発しそうな性欲を押し留め続けているとでも言おうか。本来ならば浮かんで当然のはずの疑問や不安などはない。飢餓状態の獣のようにその時を待った。
来た。
傘を差して歩く人型だ。身長は一四〇センチほど。女だ。手提げ袋を左手に持っている。
理性が弾けた。鋼鉄の肉体が躍動する。路面が砕けるほどの速さで女に肉薄し、獣が牙を剥くように、背中にかけていたブレードを縦横無尽に翻す。
僅かな抵抗感の後に、鏡のような切断面が現れる。瞬く間に女の形をしていたものが無数の部品となって宙に浮かび、路面に散らばった。
白い内部液が血溜まりのように広がる。
僅かなスパークを散らす、一瞬前まで女の形をしていた断片を見下ろしながら、俺は漂白されるような快感を貪った。
脳の芯を直接焼かれるような快感だ。これまでの全てがどうでも良くなるような陶酔感だ。俺という存在はこの快感を味わうためだけにあるのだ。気分がいい。爽快だ。この快感だけがあれば良いのだ。他の全ての感覚が遠ざかり、絶頂の数秒を味わった。
快楽の波が引いて、安堵した。
ああ、良かった。今回も俺は正しく選ぶことができた。
白だ。赤ではない。内部液なのだ。人が流す鮮血ではない。
殺さずに済んだのだ。俺は。
矛盾した思考の中で神に祈る。
終わらせてくれ。全てを押し流す快楽よりも早く、俺自身を殺してくれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。