[第三章:隠されたもの]その1

 その日、一人のカラーヤが島へとやってきた。

「…」

 黒コートに身を包んだ彼は、[菓子団]の一人、イチ・ゴ・パフェ。

 計画の第二段階、純の誘導をチョコと行うカラーヤだ。

 誘導するだけであるならば、信用のあるチョコだけでもいいかもしれない。だが、急に彼が誘導先の場所([色抽出機]があるところ)を今頃になって言うのは、幾ら信用があっても、変な印象を与えてしまう。

 なぜ今まで隠していたのかという、余計な疑念を純たちに与えかねない。

 それによる何かしらの影響が出ることも避けるために、イチは来ている。

 どういうことかといえば、彼は情報屋の役割を担っているのだ。

 チョコの友人として、徒花の手の届きにくい遠方の[色抽出機]について調べていると徒花や純に伝えられている彼の情報。

 それを受けて誘導先の場所へ行こうとすることによって、それなりに自然に誘導を始められるということなのである。

 イチの言葉の信憑性については、チョコが今まで築きあげた信頼を利用し、彼の言葉によって担保するという風にしていた。

「……チョコ。新しい情報って?」

「ええ、そこのイチから聞いた情報によれば、ここからかなり離れたある場所に、[色抽出機]が存在することが分かりました」

 チョコは純たちに対し、真面目な口調で話す。

 そこに、徒花が口を挟む。

「…私は、そういう話は聞いてないけど?」

「そりゃそうです。イチはあえて遠い場所を選んで、今まで調べてくれていたんです。その分、かかりましたけどね」

「へぇ、そうだったんだ」

 純はそう言い、先ほどから無言で立っているイチの方を向く。

「教えに来てくれてありがとう」

「…いえ」

 笑顔で言う純に対し、イチは顔を背けて小声で言う。

 傍から見ればそれは、恥ずかしがっているようにも、ただのぶっきらぼうにも見える。

 …が、チョコはその態度が何なのかを理解している。

(…あまり話していると、怒りが爆発してしまいますからね)

 被害者たちの純への怒りと恨みは相当なものだ。

 今回は計画のため、自身を押さえてここにいるわけだが、本心では彼女に襲い掛かりたいだろう。例え確実に負けるとしても。

 だが、そうしてしまい、いらぬ不信感を持たれても意味がない。そのため、イチは無言で純との関りを避け、自分を必死に抑えているのである。

 それでも、何かきっかけがあれば感情が爆発しそうであるから、危ういものである。

(…他の[菓子団]のカラーヤもイチとにたりよったりだから、私がここにいるんです。…だから、やらないと)

 そう思い、チョコは少しの間だけイチに向けていた視線を純たちの方へ戻す。

「イチによれば、その場所は[カラーズハート]やその他の警備も薄い、大きいだけの[天塔]とのことです。強襲すれば、すぐに[色抽出機]を破壊できるはずです」

「なるほどなぁ。簡単で危険は低い場所ってことか。なら、純が怪我する可能性は低いな!あひゃひゃ!」

「そうですね。油断はできないですけど」

 粋の言葉にそう相槌を打った後、チョコは純の顔を見る。

「どうです、純?距離こそここからありますが、行きさえすれば比較的簡単にやれます。行きますか?」

 その言葉に、純は深く頷く。

「勿論。行くよ。その[天塔]に、[色抽出機]のあるところへ。…そして、壊すよ」

「ですよね。前も、その前もあなたはずっとそうしていましたし」

 チョコはいらぬ質問だったという風な感じで言う。

「それなら、ここからより詳細な説明をしたいと思うのですが、いいですか?皆さん」

 その言葉に、純と粋は頷く。

 一方の徒花は少し遅れて同じようにした。

「それでは、詳しく話していきましょう」

 チョコは、純たちのところへ来る前に聞かされていた話どおりに、言葉を展開していく。

 対象の場所の位置、規模、周辺の状況などなど。

 途中徒花が、イチが何故直接言わないのかを問うてきたが、チョコはイチを自分以外と長話をするのは得意ではないと説明することで乗り切った。

 そして、ある程度時間が立ち、チョコの説明は終了する。

「…分かっていることは以上です」

「うん、説明ありがとう。チョコ、参考になったよ」

「ああ、これで作戦も立てられるぜ。絶対に失敗するわけにはいかないからな、今のはありがたかったぜ?」

 二人の言葉に、チョコは謙遜した風な態度をとり、

「いえいえ、イチが頑張って集めてきてくれたおかげです」

「…そうだね。改めてありがとう、イチ」

「あひゃひゃ!感謝するぞ!」

「…いえ別に」

 イチは視線をそらし、窓から外を見た。

「…さてと。説明も聞けたし、これから計画を詰めていこう、徒花?」

 純は彼の方へと向き直り、そう言う。

「そうだな。やれるなら早い方がいい」

「ですね。どうやるのか、決めてしまいましょう」

 粋に賛同し、そう言う中でチョコは思う。

(まぁ、基本同じでしょうけど)

 純たちの[色抽出機]破壊作戦は、基本的には純の異常なまでの身体能力と戦闘センスに依存したものだ。

 具体的な計画の内容は、純を目的地まで運んだら彼女の好きにさせ、回収時まで敵から隠れ、純を回収したら即逃げると言った風である。

 連れていく戦力は純以外には、回収班護衛用の[カラーズハート]が一人から五人程度までで、基本は二、三人である。そしてその役割上、[カラーズハート]が純と共に敵地に直接乗り込むことはなく、純が単独で全てを実行する。

 そんな純に負担がかかりすぎた雑ともいえるやり方ではあるが、彼女が余りにも化け物じみているがために、それで成功してきた。いやむしろ、そうしなければ成功しなかったろう。

 下手に送り込める数に限りのある[カラーズハート]を別動隊にしても、敵本拠地にいる以上、あっさりと全滅する可能性も高い。純だけが、その包囲をかいくぐって目的を達成することができる。よって彼女を軸にするのが最善だったのだ。

 そして、今回の条件でもそれは違わないだろう。

 よって、いつも通りの作戦でいくとチョコは見ていた。

「…そうね。作戦ね…」

 純たちの視線を受ける中、徒花は呟く。

 そして、チョコを見て徒花は言う。

 どこか、探るような目をして。

「…情報は、確かなんでしょうね?」

「勿論です。イチの持って来た情報の正確性は、私が保証します」

「なら、安心だね。チョコが言うなら間違いし」

 純は軽く笑ってそう言う。

(信頼…されてますね)

 これから、それを利用して純を処す。

 そのことを考えると、チョコは少し後ろめたくも感じたが、正しさを意識することでそれを打ち消した。

「…。まぁ、いいわ。とにかく情報は入ったんだから、計画を立てましょう。…まぁ、いつものとあまり変わりはしないけどね」

「うん、私頑張るよ」

 純は徒花に笑ってそう言う。

「あひゃひゃ!純、今回もちゃんと送って回収してやるからな?」

「あ、[カラーバーン]の輸送は私がやりますよ?前回と同じく。粋はあまり得意じゃないんでしょう?」

 チョコは数日前の襲撃のことを指して言う。

 それに粋は痛いところを突かれたという風に反応し、

「…う。確かに、チョコの方がいいかもな」

 粋は少し残念そうに言うが、すぐに気を取り直し、

「なら、俺は留守番して、帰った時の純の労い担当だな。疲れた体を…そう、俺の手で…」

「…い、いやらしい意味じゃないですよね?」

「あひゃひゃ!ちげぇちげえ、朝みたいのじゃくなくて、ただのマッサージだ」

「い、粋…ちょっと変な言い方するから…」

 少しだけ困った風に純は言う。

 それに粋は笑い、二人は楽しそうな会話を繰り広げる。

(…しかし、これも今回で見納めですか…)

 二人の様子を見て、チョコは思う。

 もうじき、ここでの生活が終わってしまうことに。

(最初は…嫌だったのに…なんですかね)

 どこか切なく寂しい気も、彼はしていた。

 それは、この決して長くはない期間で彼の心に多少の変化があった証拠だった。

(…。正しい事のためには…ね。イチも来て、ここまで説明もしてしまった。だから…)

 もうとめられない。

 被害者たちのために進むしか、今のチョコにはなかった。

 




 そして、純たちは動き出す。

 チョコとイチのつくった嘘を元に、出立の準備をし、出ていく。

 …そんな中、アカミは純たちを見ていた。

「…お姉ちゃん」

 アカミは呟く。

 その経験から、過去に抱いた感情から、思いから、純に向かって。

「…また色神を助けて…あげて…怖い、カラーヤから…」

 




「…話ってなんだ?徒花」

「ええ。純にも話はしたんだけど、聞かなくて。だから…」

 出立の前、事務室で二人は何かを話した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る