第十六話 この先には

「……光希」


 そばでオレたちの様子を見守っていた進さんがオレを呼んだ。

「良かったな」

「はいっ」

 優しい顔つきでそう言った進さんに、オレは短く答えた。

 何度も泣いたせいで目元が腫れている。今のオレはきっと、自分にとって無様極まりない顔をしているだろう。

 結局、あの現象が何だったのか理解できていない。でも、


『光葉雪は一部の人たちの間ではこう呼ばれています。――死者と対話できる日、と』


 いつかの日に自分が喋ったことを思い出す。

(……いや、考えるのはもうよそう)

 思考を断ち切り、進さんに歩み寄る。

「もう帰りましょうか」

「お、おう……そうだな光希」

 オレから帰ろうと発したことが予想外だったのか、進さんは何度も瞬きをした。



 地下通路を二人で並んで歩く。あれから進さんとは一言も話していない。けれどそこに居心地の悪さはない。オレだけは、だが。

「……そうだよな〜……いや、でも……」

 オレが帰ろうと言い出してから、進さんはずっと独り言を呟いては何かに悩んでいるようだった。

(まぁ、その何かは大体予想がつく)

 やがて進さんは意を決したのかオレの方を向く。

「光希、おれが今回のことを上に報告したら、自分がどうなるかわかっているな?」

 目を伏せながら自分の過去を省みる。

(世界樹内部への不法侵入、そして本の利用。未遂に終わったとはいえ、違反は違反。それも世界樹の関係者なら尚更罪は重い。……逮捕は免れないな)

「……えぇ、もちろん」

自分のことなのに、まるで他人事のようにひどく冷静に答える。そんな自分オレがほんの僅かに恐ろしいと感じた。

「そう、か……」

 オレとは正反対に、進さんは自分のことのように辛そうな顔をする。

(そんな顔をする必要なんてないのに……)

「……一応言っときますけど、オレを憐れんで上に報告しないなんて真似、しないでくださいよ、

 オレは、自分が可哀想な奴だと思いたくないんで、と早口に添えた。そして進さんの数歩前に出てそそくさと歩く。

「……そうだな」

 その時、進さんがどんな顔をしていたのかオレにはわからない。



 長い一本道の先に階段が見えてきた。

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