第十五話 会いたかった……

 俯いたままだった顔を上げる。その先には慈しむような顔でオレを見る進さんがいた。

「その様子じゃ、もう大丈夫だな!」

 さっきまでの聖人君子のような雰囲気は消え、いつもの、少年のような爽快さを彷彿とさせる進さんに戻っていた。

「……いつからオレの計画に気づいているいたんですか? というか、ずっと進さんなんかにバレてたと思うとすごい恥ずかしいんですけど……」

 涙を拭い、照れ隠しも込めて進さんに毒を吐く。すると、進さんなんかとは何だ!? 光希コノヤロー!! と冗談交じりに叱られる。それに思わず笑みがこぼれた。進さんも、そんなオレにつられてか笑っていた。


 その瞬間、周囲が僅かに暗くなった。


 自分のことで精一杯になりすぎて気づかなかったが、さっきまで際限なく飛んでいた光の粒が明らかに減っていた。

(これは……)

「もうじき、光葉雪が終りそうだな」

 どうやら進さんも同じことを考えていたらしい。

「はい。この様子だと、ここに長居はしてられませんね」

 進さんもそれに同意して、オレたちはここから出ようとする。けれどふと、アレに目を向けてた。


 『比留間 一輝』


 その文字がさっきよりも霞んで見えた。そして本が白い光に包まれる。さらさらと風に吹かれて崩れる花びらのように、本が光の粒へと変化していく。

(これで、本当に終わりだな……)

 少しの寂しさを感じながら、オレは兄の本が崩れるのを見届ける。その時、


 ――光の粒が形を成していく――


 それは目を、鼻を、口を作っていく。

(……っ!?)

 光の粒が形作った人の姿に、驚きを隠せなかった。だって、その姿は……


「にい、ちゃん……」


 死んだはずの兄だったから。

「なんで、兄ちゃんが……」

 開いた口が塞がらない。目の前で起きている現象を上手く処理できない。言葉が、繋がらない……。

『……光希』

 その声を聞いて、懐かしさに心が震えた。自然と涙が溢れ出す。視界が滲んでいく。

『今までよく頑張ったな』

「……けどっ! オレは、」

 オレは、間違っていたんだ。けれど、その言葉が響くことはなかった。代わりに、太陽のように温かい光がオレの額と触れ合う。

『光希――』

 兄は両手でオレの頰を包みながら、あやすように名前を呼ぶ。

『――独りにして、ごめんな』

「っ!? 待って! 兄ちゃん!!」

  後悔と悲しみを纏った兄の姿が徐々に薄まる。兄を形作っていた光の粒が上へ飛んでいく。

『俺も、もっとずっと光希と、家族と一緒にいたかったよ。……もう、叶うことはないけど、それでも俺は光希のこと、ずっと見守っているから』

 言い終えると同時に兄は儚く散っていった。散る直前、兄の笑った顔は雲一つない、あの日の快晴のように見えた。

 その顔を見て、オレはまた涙を流していた。

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