第十一話 始まる

 同日 午後七時 世界樹立入禁止区域


 太陽が沈む。夜に包まれていく。それに逆らうかのように世界樹が仄かに光り出した。その光は徐々に明るさを増していき、数分経つと自らが発光するイルミネーションのようになっていた。

「そろそろ始まるかなー」

 進さんの子どもの好奇心に似た言葉に返す言葉はなく、オレはただ世界樹一点を眺めていた。

「……っ! 始まった」

 その言葉と同時に空が煌めいていく。


 ――空から光の粒が降ってくる――


 それはゆっくりと大地を包むように降り注ぎ、その姿はさながら雪のようだ。そんな光葉雪に呼応して、世界樹の放つ光がさらに輝く。

「おぉ! やっぱ、何度見ても光葉雪はキレイだなー」

 ついに始まった光葉雪に進さんは高揚し、オレは――

(いよいよだ……)

 これからすることへの緊張感からか、少しだけ顔が強張った。

「……光希、光葉雪が始まったことだし、そろそろおれらも見回りに行こうか」

 オレへ向けたその声は、非力な人々を守ってくれるような優しさを纏っていた。いつもの、子どもっぽい言動や表情からは想像できない進さんの雰囲気に、一瞬思考が止まる。人を気遣う大人のような瞳と声色が、オレの奥底に眠る心を揺さぶった気がした。

「……そうしましょう」

(……大丈夫だ、オレならできる……)

 なんとか言葉を紡いだ。それと同時にオレは進さんのもとから離れていった。進さんが、オレの後ろ姿を見続けているのに気づかないまま。


「……過去に縋ったまま生きるのは、辛いだけだぞ……光希」

 憂いが籠もったその言葉は、誰にも聞かれることなく降りかかる光の粒とともに消えていった。

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