第八話 オレが(1)

 午前十時 東京都 一輝いつき


『続いてのニュースです。先週、東京都☓☓区で遺体が発見されました。亡くなった比留間一家は、文昭ふみあきさん五十三歳、智美ともみさん四十七歳、一輝さん二十歳です。遺体には十数か所に刺し傷があり、犯行の特徴から先月新宿区で起きた朝倉あさくらはるさん殺害事件の犯人と同一人物であると断定されました。警察はこれを受けて、連続殺人事件として犯人の捜索を始めました。また――』

 テレビから流れる音が消え、辺りが静寂に包まれる。窓から漏れる騒々しい音とは対照的に、オレは息を潜めるように静かにうずくまっていた。この家には今日、兄ちゃんの遺品整理のために来ていた。

(なんで、兄ちゃんたちなんだよ……)

 服の袖を強く握るオレの心は絶望に染まっていた。ついこの間まで、留まることを知らない光のようだった少年オレの姿は見る影もなかった。


 しばらくの間オレは感傷に浸った。しかしふと目線を上げると、オレはその先にあるモノに惹き込まれた。


 《世界の樹》

 本棚にあるそれは、兄ちゃんが大学で学ぶための資料だった。

 重たい身体に力を入れ、オレはその本のもとへ近づく。そしてさほど分厚くもない本をパラパラとめくり始めた。


【世界樹】

・それは記録上、四大文明が興った時代から存在する

・大きさや場所、数を変えながら今もなおこの世界に存在している

――――――

――――


 一ページ、また一ページとめくるうちに、日常の一部でしかなかったものに常識を逸した何かを感じる。

 オレは手を休めることなく読み進めた。まるで運命か何かに導かれるように。そして偶然めくったページに、一つのメモ書きがあった。


 世界樹の中にある大量の本には、死者の魂の一部が刻まれていて、その人の一生を鮮明に書き記している。


 兄ちゃんの、お手本のような綺麗な字で書かれたその内容に、オレは目を見開いた。

(……これが本当なら、兄ちゃんたちをやった犯人をすぐにつかまえられるんじゃ……)

 そんな一縷いちるの希望を抱くと、オレは居ても立ってもいられなくなった。鎖に繋がれたように鈍くなっていた思考を呼び戻し、本を片手に急いで警察署へ向かった。


                ……しかし、

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