第三話 ツアーガイド(2)

「「世界樹の役割??」」

 

 疑問符を浮かべる彼らを前に、言葉を選びながら話し始める。

「世界樹にはニつ、大きな役割があります。一つは冥界と現世を繋ぐこと。これは世間に広く浸透していますね。そしてもう一つは……本を管理することです」

 いきなり調子外れなことを言われ、さらに疑問符を浮かべる彼らにオレは同情の苦笑いをした。

「まぁ、本の管理と言っても、管理する本は書店などで売られている本ではないですよ。世界樹で管理している本は、亡くなった人の一生が書かれている本です」

 それを聞いた彼らは目を丸くする。

「ありえない、と思うかもしれませんが、世界樹の幹の内部には実際に何百万、何千万といった本が管理されています」

 彼らの表情が驚きから好奇心へと変わる。それを確認して、オレはある質問をした。

「ではもし仮に、人口が多い国に世界樹が一本しかなかったら、どんなデメリットがありますか?」

 ある少年は首をひねりながら考え、ある少女は友達と意見を出し合い、またある少年は世界樹一点を瞬き一つせずに眺めていた。それも真顔で。

 各々が答えを探し始めてから少し経った頃、ある少年が「もしかして、世界樹には管理できる本の数に限りがあったりするのかな?」と呟く。するとさっきの真顔少年がこちらに視線を戻して口を開いた。

「じゃあ、人口が多い国ほど世界樹に入れられる本の限界が早く来るってことになるね」

「その通りです。世界樹はかなり大きな樹で特異な存在ではあります。けれど体積が定まっている以上、無限に本を収容できるわけではないのです」

 そう解説する最中、オレは質問をしてくれた少女に目を向ける。

「前置きが長くなりましたが、人口が多い国に世界樹が一本だけだと、本の収容限界が早まってしまいます。だからそれを緩和するために、世界樹がニ本配置されているんです」

 少女の質問から時間としては十分程度しか経っていないはずだ。だが、その答えを長い間待ち焦がれていたかのように、少女をはじめとする多くの中学生が今、スッキリとした表情をしていた。その表情を見てオレは、心のどこかで羨ましいと思っていた。

 すると、オレから少し離れたところにいる背丈の高い少年が、おもむろに手を挙げながらオレのほうを見て喋る。

「世界樹で管理できる本には上限があるって言ってましたけど、もし、あそこにある世界樹が上限に達したらどうなるんですか?」

 さも当然の疑問だ、のような顔をして長身の少年は言った。今回の中学生たちは頭が回るな、と感心とほんの少しの面倒くささを噛み締めた。オレは僅かに間を置いて、さっきまでと同じ何ら変わりない様相で口を動かす。

「それに関しては、みんなもよく知っているあの現象と実は繋がりがあります。さて、それはなんでしょう?」

「あっ!! もしかしてあれかな!?」

「えっ? なになに?」


「ほらあれ! 光葉雪こうようせつだよ!」

 

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