第ニ話 ツアーガイド(1)

 五月十三日

 

 世界樹保全委員会管理部に所属している比留間ひるま光希こうきもといオレは今、世界樹近辺にある広場で中学生に向けた世界樹のツアーガイドをしていた。中学生とはいえまだ子ども、それを数十人相手するのは子どもが苦手なオレにはきついと感じていた。それもあともう少しで終わると自分に言い聞かせながら、オレは口を開く。

「では、世界樹がいつからあるか知っていますか?」

「はい! 江戸時代だと思います!」

「うーん、もっと前の時代じゃない?」

「僕は飛鳥時代だと思う!」

 次々と上がる活発な答えを聞きながらオレは答える。

「正解は、四大文明が興った時からです。記録上では紀元前ニ、三〇〇〇年前となっていますが、世界樹が正確にいつの時代からあるのかはまだ明らかになっていません」

 へぇ、と関心を示し始めた彼らを見て、オレは心に少し余裕ができたのを感じる。

「みんな、世界樹は時代や国が変化していくごとに位置や数が変わっていったのは知っていますね。現在は大体、一つの国に一本の世界樹があります。ですが当然、例外というのもあって、国土面積が広い国や人口が多い国にはニ本の世界樹があったりします」

 中学生にもわかるよう、比較的伝わりやすい言葉を選んで説明したつもりだった。が、中にはまだ理解が追い付いてない人もいた。オレが冷や汗をかき始めたそんな時――

「あの、なんで国土面積が広い国だけじゃなくて、人口が多い国にも世界樹がニ本あるんですか?」

 一人の少女がおずおずとオレに質問した。その質問を待っていましたと言わんばかりにオレの思考がクリアになっていく。そして、心地良い風が吹く晴天の下で新緑の葉を揺らしている世界樹に右手を向けた。

「それは、世界樹の持つ大きな役割に関係しています」

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