果てしない暗闇の先には

ポイソト

暗闇を超えて

目を開く

しかし目の前に広がるのは果てしない黒。自分が目を開いているのかどうかさえ分からなくなる程の暗闇。


下を見る

自分の体だけが見え、足から下にも暗闇は広がっている。


どうすればいいのかさえ分からない。進もうにも何処を目指せばいいのか分からない。自分が今どこにいるのかさえ分からない。

ただ、一つ分かるのは今の状況は絶望的ということだけ。


『おい、何をボサッとしてる。早く歩け』


頭の奥に直接声が響く。怒気を帯びた声は中性的で男女の判別はつかない。

色々と疑問が浮かぶ。ここは何処なのか、あなたは誰なのか、自分はどこに歩けばいいのか。

それを聞こうとしても声が出ない。そもそも口が動かないのだ。


『だーかーら、歩けって言ってんだろ。俺になんか聞いても答えは返ってこねぇよ。なんせ、お前の声は俺には届かねぇからな』


どれだけ考えても謎の声に従う以外方法は無さそうだ。

大人しく声に従い前?へと歩き始める。


『そうそう。それでいい』


どれだけ歩いても周囲の景色が変わらないので自分が前に進めてるのか分からない。


『安心しろ、お前は前に進めてる。確実にな』


自分が疑問を抱いた時に的確に答えをくれる謎の声に自分の思考が覗かれているかもしれないという恐怖を覚える。


『もし俺がお前の思考が分かるかもって考えてんだったらそれは被害妄想に過ぎない。さっきも言ったがお前の声は俺には届かねぇよ。余計な事考えないでさっさと歩け』


今こんなことを言ってくる時点でこの謎の声が大分信用できないことが分かった。

それでも今はこの声を信じて進む以外に道はないのだから歩き続ける。




歩いている途中で気付いた事があるがどうやらこの空間は匂いも音もないらしい。無音無臭の空間を歩き続けていると気が狂いそうになる。

謎の声も先程から沈黙したままで何も言ってこず、ただ独りで暗闇の中を歩いている。




終わりが見えない絶望と誰も、何もないこの空間に対する不安と寂しさは歩き続ける内に大きくなりついに足を止めそうになる。


『そんなことで足を止めんじゃねぇ、歩け』


久しぶりかどうか分からないが聞こえたこの声に安堵する。自分は独りじゃないのだと、誰かが自分が進む事を望んでいるのだと思うと自分の中にあった黒い感情は薄れていき、歩みは軽くなる。




自分はどれ程の時間を歩いたのだろう、どれ程の距離を進んだのだろう。時計も何もないここじゃ分からないが結構な距離を進んだ気がする。


『そんな進んでねぇよ。自惚れんな』


この声は毒舌だ。自分が自信を持ったときはすぐにへし折ってくる。声が聞きたいからと足を止めてもその時は何も言ってこない。この声は自分の味方なのだろうか?






歩く、歩く、歩く。

不思議な事に肉体的な疲れは感じない。けれど、それは精神的な疲れを大きくする。立ち止まりたくても立ち止まる理由をくれない。


『よく分かってんじゃねぇか。歩きたくない?でもお前は歩ける。じゃあ、歩くしかねぇよな?』


………やっぱりこの声は嫌いだ。





ふと気付く。肉体的に疲れないのなら走った方が早くゴールに着くのではないか?ゴールがあるかないかは別にとして。

思い立ったが吉とすぐに走り始める。


『やめとけ。そんなことしても変わんねぇよ』



声の言う通りやめておけば良かったと後悔する。ずっと、ずっとずっと走り続けても景色は変わらない。こんなにも走っているのに何も変わらない。自分の努力はなんだったんだと虚しくなってくる。


『どうせ走ってもなんも変わんねぇんだからゆっくり行こうぜ?』


大人しく声に従い歩く事にした。走っても辛くなるだけだ。だったら歩いてのんびり行こう。こんな場所を一刻でも早く抜け出したいがその方法が分からないのだから仕方がない。








もう諦めたくなってきた。永遠に変わらない暗闇に自分の行動に意味はあるのかと疑問に思う。いくら歩いても暗闇なら、もう諦めて止まった方が楽なんじゃないか?


『何止まってんだ歩けよ。止まったら楽になるとか考えてんだったらお前は一生ゴールできねぇよ』


うるさい


『歩けよ。お前が立ち止まってる間にも周りは進むぞ?』


うるさい


『ほら立ち上がれよ。進まねぇと何も変わらないぜ?』


うるさい!!!!

歩いても歩いても歩いても歩いても何も変わらない。永遠に暗闇が続くだけ。こんなのがずっと続くんだったら、止まった方が何倍もマシだ。


『なぁ、いつからコレがずっと続くって考えてんだ?』


は?


『ゴールはある。それは間違いない。ただ、そのゴールが何処なのから知らない。お前自身が見つけるんだな』


なんだよそれ。そんなの一番残酷な答えじゃないか。ゴールはあるって言われて、でもそのゴールは何処なのか分からなくて、でも立ち止まったらゴールできない。そんなの、ただ進むしかないじゃないか。


『そうだ、お前は進むしかない。立ち止まったら、もう終わりだ、そいつは進む事を諦めちまう。お前はよくやってるよ、立ち止まっても、諦めずに進もうとしてんだからな』


やっぱりこの声は嫌いだ











歩く、歩く、歩く。

終わりの見えない暗闇をずっと歩き続ける。景色は最初からずっと変わらないがゴールがあると分かった分気持ちが楽になった。


ゴンッ


そうして歩いていると何かにぶつかった。目の前は相変わらず暗闇で何にぶつかったかは分からない。その何かに手を着いて形を確かめようとすると、凹凸は無く横に広い平らなモノがある。恐らく壁のような何かがあるのだろう。


『お、ようやくぶち当たったか。さて、お前はどうする?壁を登るか?横に避けるか?それとも、ぶち壊すか?全部お前次第だ』


軽く触ってみた感じでは壁に凹凸は無いしどれ程の高さかも分からない。登るのは現実的じゃないだろう。

横に避けようにもこの壁がどれだけ横に広がってるか分からない。避けるのも現実的じゃないだろう。

なら、一番可能性があるのはこの壁を壊す事だ。

きっとこの壁の向こう側にゴールがある気がする。

どうすればいいか分からないが取り敢えず殴ってみる。


『お、そっちを選んだか、じゃあ頑張れよ。この壁は越えられないモノでも、避けれないモノでも、壊せないモノでもないからな』


この声を聞いて安心できた。この声は今まで嘘を吐いたことはない。だったらこの壁は絶対に壊せる。

そう確信を持って殴り続ける。硬いモノを殴っている筈なのに肉体的なダメージはない。歩き続けるのが殴り続けるのに変わっただけだ。




殴る、殴る、殴る。

無我夢中で殴り続ける。ある程度殴り続けたら殴っている部分が凹んでいる事に気付いた。壁の厚さは分からない。けど、すぐ先に、目の前にゴールがあるという希望は自分を鼓舞してくれる。






どれだけ殴り続けただろう。ひたすら壁を壊していると、一抹の光が壁の向こう側から差す。きっと、ゴールの光だ。


『お、もうすぐだ。さあ、さっさと壊せ』


言われなくても分かっている。光が差して来た瞬間から心なしか拳を振る速度が上がった気がする。




もうすぐ終わりだ。壁には大きな穴が空きあと少しで自分が通れそうだ。光は鬱陶しい位に差している。ゴールは目の前だ。



最後に拳を大きく振りかぶって壁にぶつける。自分が通れそうな穴が空いた時、壁は音も無く消え去った。まるで自分を祝福するようにゴールの光が自分を包み込む。


この暗闇を抜け出す達成感と感動に浸りながら光の向こう側へと、一歩踏み出す。


視界が真っ白に染まる。そして数秒後、視界が開ける。

そこには以前と同じ暗闇があった。


『おめでとう。お前はスタートラインに立った。俺がいつからここがゴールだと言った?』


そんなのあまりにも残酷だ。期待させるだけさせてゴールじゃありませんだなんて。


『言っただろ?ここはスタートラインだ。こっから先はボーナスステージ。ゴールはお前次第だ。お前の限界が、お前が力尽きる場所がお前のゴールだ』


じゃあ、今までの暗闇はなんだったんだ


『そうだな…後ろを見てみろ』


そこには果てしない暗闇…だけではなく地面?には数多の光の線が入っており罅のようになっていた。それらは曲がりくねったモノもあれば真っ直ぐなモノもある。ここに繋がっているモノもあれば、途中で途切れたモノもあった。


『これは先人達の遺産だ。先人達もここを、そしてこの先の限界を目指して歩いてんだ。俺はここまでのナビゲーター。こっから先は正真正銘お前独りだ』


じゃあ自分は今まで他人の道を辿っていただけ。そしてこの声は道から外れないようにする先人達の声ってことか?


『なんだ?この先自分独りじゃ不安か?安心しろ。お前はここまで来れた。その経験がお前の行くべき道を、いや行きたい道を示してくれる』


そう声が言った瞬間、自分の足元から光が暗闇の地平線へと伸びてゆく。まるでここを通れと言わんばかりに。


『お前はこの先色んな困難にぶち当たる。確実にな。足を止めたくなるかもしれない。諦めたくなるかもしれない。だけど、それはもうお前が通った道だ。だったら、解決方法は分かるだろ?』


『こっから先はボーナスステージ。自分の栄光の夢を目指して歩くだけ。ゴールは自分が満足するまでだ。もしお前が永遠に満足できねぇんだったらお前はより遠くへ行ける。行き詰まったら、横を見てみろ。きっと同じように夢を目指す馬鹿共が沢山いる』


『お前の行く道は誰かを導く光になる。お前が辿った道のようにな』


『最後に一つ、振り返るな。そこには暗闇だけだ。そこには何もない。お前は前か横を見て進め』



『さあ、行けよドリーマー。お前はもう独りで行ける』



「ありがとう」




きっと、永い永い道になるだろう。

そんな事は関係ない。自分達はこれまでの暗闇を踏破したんだ。今までとなんら変わりはない。

自信をもって自分達はこの夢への光に一歩踏み出す。

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果てしない暗闇の先には ポイソト @kei_usshy

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