錬金術:巨峰養豚

 俺は岩石製ゴーレムを30体作りだし、養豚場の建設に取り掛かった。


 今回はレッドスクロール家で使われている接合法による建築をおこなう。猪たちが生活するので製粉場より緻密な建物が要求されるためだ。隙間風とかあったら冬は寒いだろうしね。


 木組みの原理はいたってシンプル。


 木材に穴を空ける。

 穴にぴったりはまるよう木材を加工する。

 組み合わせる。これでいい。なお超難しい。


 ただし、接合法はレッドスクロールでは必須科目だ。

 家具の修理や、家の修理・増築などを子供のころから手伝わされてきたので、こうしたことは自然と身についている。


 ヘラとトムにも手伝ってもらい、家族総出でとりかかった。


 ちなみに我が家ではトムが最も接合法に秀でている。

 なので彼の加工した木材を、基準に錬成魔法陣を構築する。

 

 目的別錬成魔法陣の作り方は簡単だ。

 まず石灰で基礎魔法陣の円だけを描く。


 円内にトムの加工した木材を設置。

 錬成術:解析術を行い、形状の情報を取る。

 石灰で魔法陣に加筆をおこなう。

 

 これでトムの加工した木材を生成物にした錬成魔法陣ができる。あとは木材を用意して、生成物へ向かって錬成術を発動する。


「──っていう作業を姉さんにお願いしたいです。僕はゴーレムの作業を監督しないとなので」

「お姉ちゃんに任せなさい! 錬成魔法陣は私だって得意なんだから!」


 2日後、養豚場は完成した。

 錬金術師が一致団結すれば不可能はない。


「お疲れ様です、姉さん」

「すやぁすやぁ、私だってやればできるんだもんむにゃむにゃ……」

 

 二徹明けの姉上様をベッドに送り届け、俺は覚醒効果のある薬草を口にくわえて、猪たちを新居へご案内する。


 ラルが継続的に支配の魔法を付与し続けてくれていた猪たちは逃げ出していなかった。


 なんなら数が増えている。60頭はいる。養豚場建設中にも猪を集めてきてくれたらしい。


「おにいちゃん! 猪おっきくなった!」

「大きく? ……確かにデカいですね」


 流石に目の錯覚か? そんな数日でデカくなるわけがない……よな?


 

 ────



 王国歴1079年2月


 養豚場のシステムを構築した。

 羊飼いたちをを中心に、メンバーを選出し、猪たちのお世話を監督してもらい、知恵をだしあって一歩ずつ進んだ。


 与えるエサの選別はまだ課題だ。

 どのエサを与えたら猪が美味しくなるのか、結果がでるのには時間がまだかかるだろう。ひとまず小麦が大好きなのはわかっている。


 糞尿の処理に関してもだいたい整理できた。土と混ぜあわせ、有機物の微生物たちの働きをつかって分解と発酵をおこない、堆肥にする。これは肥料として使える。


 猪たちの成長についても結果はでた。

 結論を言うと──猪はデカくなっていた。


 十中八九、原因はエサにあると思ったので、様々な餌を、異なる量あげてデータを集めた。


 この研究結果に確証を持てるようになるには、成長を見守る必要があるため、長い時間がかかるだろうが……恐らく『グングン霊薬』をもちいて作った爆速成長植物たちが、関係しているとわかった。

 

 また猪たちの成長には、ストレスを与えないことが大事だとわかった。

 これは養豚場内で、猪たちの力関係を見たことから至った発想だ。


 たくさん食べて先に牛サイズになった猪がいると、同部屋の猪たちが、なかなか牛サイズに成長しないのである。


 観察の結果、牛サイズ猪が普通サイズ猪をいじめていることがわかった。

 いじめによるストレスが猪の成長を阻害してしまうのだ。


 なので部屋内のパワーバランスが崩れたら、メンバーをいれかえて調整を行うようにした。


「さあ、お楽しみの時間だぞ~!」

「ぷひい~!」


 夕方、巨大な温泉に猪たちが飛び出していき、気持ちよさそうに泳ぎ始めた。ストレスとは逆の発想──リラックスである。

 

 ストレスが悪影響を及ぼすなら、リラックスは良い影響をおよぼすと考えた。それゆえの温泉タイムである。効果の実証は食べてみないとわからないが、猪たちはお風呂好きらしいので、肉の旨さに関わらず、温泉タイムは続けていこうと思う。


 ストレスを与えない。

 快適に過ごしてもらう。

 愛情をもって育てる。

 きっとこういうのが大事なのだ。

 

 

 ────



 王国歴1079年3月


 誕生日を迎え、俺は9歳になった。

 いまでは皆さん漏れなく牛サイズになった。

 流石にこれ以上はデカくならなそうだ。


 猪たちの生活環境はさらに手が加えられ、いまではそれぞれの部屋に火と風のルーンを設置して、快適な温度にできるよう設備も整えている。夏場は水のルーンを使ってミストを実施するつもりだ。


 巨大で最高な豚を育てる錬金術。

 養豚場の設備、飼育システム、与えるエサ、まだまだ研究中のこれらの術法を俺はまとめ、こう名付けた『巨峰養豚きょほうようとん』と。

 

「さてと今日も養豚場の様子を見に行くか」


 朝起きたらお散歩がてらに養豚場に向かう。

 これが最近のルーティンだ。


「わぁあ! おおきな猪がたくさんいます! ついに伝説にうたわれる猪の里、発見です!」


 鹿がいた。

 養豚場のなかに。

 猪たちを見て拍手していた。

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