仲良し三兄弟

 王国歴1078年12月


 一昨日、友の帰路のため贈り物をした。

 ミスリルブレス合金とブラックオルクの複合弓。名は『半鹿の七つ道具マルチツール・オブ・シェルティ』。一本で様々な状況に対処できる優れものだ。


 かの弓にはルーンが12個も烙印できた。

 放射烙印法に技術の進歩があったおかげだ。


 そういうわけで、俺の弓を作りなおしてる。

 俺のは11個しかルーンがないのでね。

 12個つけれるとわかったらやらないと。


 姉上様は再来月で12歳のお誕生日を迎える。

 ゆえこの傑作をプレゼントとして贈る。


「できましたよ。姉さん専用の弓です」

「最強の弓だー! ありがと、弟ぉ!」

「おねえちゃんだけずるい~! んん~! ラルもみすりるほしい~!」


 黒鱗の長尾が不機嫌に床を叩いた。


「こら、床ぺちダメってママに言われてるでしょ。ぺちぺちしたら悪い子だよ!」

「むぅ~、ラルは悪い子じゃないもん!」


 床ぺちが収まった。いい子だね。

 マーリンは満足そうにラルの頭を撫でる。


「先月の妹のお誕生日にはお姉ちゃんが手袋あげたよね?」

「でも、おねえちゃんの編み物、おにいちゃんのよりゴワゴワしててやだ!」

「はぐっ! なんでそんなこと言うのぉ、ひっく、弟ぉ、妹がいじめてくる!」

「いや、妹に負けないでくださいよ、姉さん」

「ふぐぅ、酷いよ、妹ぉ、仕方ないじゃん、弟の魔力の糸と比べないでよぉ、お姉ちゃんだって頑張ってつくったんだよぉっ」

「ぐすん、おねえちゃん、泣かないでぇ……」


 ラルもポロポロ泣き出した。

 5歳ながら罪悪感を覚えたのだろう。


 俺はふたりにハグをする。三人で塊になっていると、気持ちが落ち着いたのか、泣き止んでくれた。世話のかかる姉妹である。


 その後、俺はミスリルの余材と銀を混ぜて、角飾りを作った。

 黒くて太い立派な巻き角に、ミスリルシルバーの淡緑の輝きをそえる。


「できましたよ、似合ってます」

「よかったねぇ~、妹!」

「うん! おねえちゃんとお揃い! みすりる! おにいちゃんありがと!」


 黒鱗の尻尾がフリフリ動いた。

 錬金術工房の石床はずりずり音を奏でる。

 俺も姉さんもとろけた笑みになるのだった。


 

 ────



 王国歴1079年1月


「坊ちゃん、お肉が……BLTが……」

「はぁ、話くらいは聞きましょう」

「以前は1日1BLTだったところ、いまでは1日3BLTキメれるようになりまして──」


 俺は頭を抱えた。また肉不足だ。

 そりゃ消費量が3倍になれば追いつかない。

 思うにBLTの中毒性は、薬物と変わらない。


 ”美味い物”がほかにないからだ。今まで食べてきた飯とBLTの次元が違いすぎるのだ。


「BLT規制しないとですかね?」

「どうかそれだけはご勘弁をぉ!」


 なら、肉がもっと必要だ。

 でも、狩人の強化はもう済んでいる。

 これ以上、劇的な収獲量増加は見込めない。

 

 狩人を越えし狩人、シェルティが村に帰ってきてくれたらよいが……想定外なことに、新年になってもあの子鹿は村に戻ってこなかった。


 正直、1週間もすれば、仲間の半鹿たちを引き連れて「BLTを食べにきました~!」と、外食気分でやってくるかなと思っていたのだが。


「豊富な食糧を得たことで、来年はもっと人口増えるだろうしなぁ……抜本的な食糧供給量の底上げをしないと……」

「おにいちゃん、なに悩んでるの~?」

「村でまたお肉が必要になっちゃいましてね。この先も、狩りで成果をあげ続けるのは難しいから、養豚でもしないといけないかなって」

「ようとん~?」

「養豚っていうのはですね──」


 つまり村で豚を育てること。

 以前から考えてはいた。


 課題はある。

 獰猛な猪の捕獲。これは骨が折れる。

 それに成果がでるのに時間がかかる。


 でも、村の未来を思えば、目先の利益より、こうした産業をいまのうちに育てておくのが良いのかもしれない。


「ラルがおにいちゃんのお手伝いする~!」

「ありがとうございます。でも、猪捕獲は危ないから、僕と姉さんでいってきます──というわけで、姉さん、猪、捕まえにいきましょっか」

「魔力の羊糸を使えるのは、私たちだけだし、仕方ないなぁ~!」


 嬉しそうな姉上様といっしょに森へ。これはシマエナガ村の養豚史の最初の1ページだ。


 8時間後。


「姉さん、猪、いなくないすか……」

「もうずっと歩き回ってるにぃ!」


 歴史の1ページは思ったより遠かった。

 

「シェルティが狩りまくってせいで、猪界隈でこのあたりは危ないって噂されてるのかもしれないですね」

「むあぁ! あの子鹿ぁ! 責任求むー! 村に住んで私たちをしっかり養ってぇ!」


 吠える姉。

 こだまする咆哮。

 冬の森、遠くまで響き渡る。

 あとに残るは静けさ。


 ドタドタ、ドタドタ。

 無数の足音が聞こえる。

 遠くからせまってくる。

 

「もしかしてゴーレム!?」

「姉さん、頭をさげててください」


 木々の間、蠢く無数の影。

 その先頭、白髪をなびかせる女の子。

 背後には20頭以上の猪を従えている。


「あっ! おにいちゃんとおねえちゃんだ!」

「……えっと、ラル、いろいろと疑問が」

「うわぁん! 猪の群れだぁ! 捕獲して、閉じ込めて、家畜にしようとしてた邪な考えがバレたんだぁ! 潰される、殺されるぅ!」

「ようとん~! たくさん捕まえてきた~!」

「猪たちが大人しい……『夢囚ゆめとらえ魔眼まがん』の力か」

 

 ラルの魔眼の能力。


 第一の能力は見た対象の強制寝落ち。

 1歳の誕生日に発現した基礎魔法。


 第二の能力は見た対象の支配。

 5歳の誕生日で発現した新たな力。

 

「えへへ、おにいちゃん、嬉しい~?」

「嬉しいですよ。おかけで養豚を始められますから。たくさん角を撫でてあげましょう」


 黒鱗の尻尾がフリフリ動いた。

 俺とマーリンは、姫様の左右の手をとって繋いで、猪たちを引き連れて村に帰った。


 急いで養豚場作らないと。

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