第17話 一番最初の積み木

 刑務のひとつである巡回をしながら、エリコは考えごとをしていた。

 ――いきなりはムリだったんだ。

 もちろんKAGUYAの意図や思惑もそれとなく汲める。

 まずは先入観も何もなしに、アタシの潜在能力を見越して荒っぽくも体験させたのだ。

 おかげで一回死んだ気がする。

 それとともに、多くを学べた。

 マルチバースとも、パラレルワールドとも、ループや時間ものとも違う。

 これまでの概念をかんたんに打ち破る、古いようで新しい地平だ。

 ……適用範囲広すぎない?

 青空教室でも開いてほしい。

 でもそれじゃあダメなんだろうなあ。

 これは、カラダにも脳にも直に刻みつけて覚えるものなのだ。

 残念ながら高度な理解はアタシにはできそうもない。

 でも、それが正解な気もする。

 他の人たちも、似た境遇ではないだろうか。

 大変化は、起こっていたのだ。

 けれど、アタマがついていけないものが大多数で――。

 それがために、ハマったいわゆる「八方塞がり」の人もいると思う。

 アタシが救えるとは思えない。

 特別でもなんでもないし。

 本当にできることはちょびっとだけで。

 でも、始まってしまったんだ。

 同じようなスタートかどうかは分からない。

 まるでカタツムリだな。

 ノロノロとした、進んでいるのかいないのかもちゃんとしていない歩み。

 後退することも、休み休みもあるだろう。

 ……計画を立てよう。

 グランドデザインでもいい。

 なんならコンテ、スケッチでも構わない。

 やるたびに軌道修正していって臨機応変につくりかえていく。

 うーん、うーう、うーんと、うんうん……。

 まずは、固定して移動する場所のクラフトだ。

 懐から小型の指輪をすちゃっと取り出して適当な指にはめる。シュッと指輪がフィットする。

 大体のことができちゃう、マルチデバイスのひとつだ。

 埋め込み型もあるのだが、アタシは認可されていない。

 巡回は抜け目なくしながら、わずかなジェスチャーと声で宙に無限に広がるホワイトボードを開き、カルテ・クセジュを素描する。

 何をどれだけ知っているか、マッピングして全体像をまず大雑把に掴むのだ。

 まず、「自分」と「物語」を離れたところにそれぞれポイントする。

「物語」にさ程遠くないところに「世界」をポイントし、両者を結び、≒とする。?も申し添えとく。

「自分」と「物語」の間に「船」と書き、考えて「物語船」と書き換える。

「椅子?」と繋げ、「移動する際のホームベース!」と大きめに書く。

 そこから伸ばし、「つくる」を書き添え、「輪郭」も付け足す。

「足場!」と丸をつけてすぐ隣に書く。

 そうだね、まずはこれだ。

 ここより冒険は始まるのだ。

 実際なーんにもさっぱりなんだけど、静かな昂奮と爽快感がやってきた。

 水没したニューヨークのビル群を飛び渡りながら、夢想に心躍らせていた。

 

 

 

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