第15話 ヴァーチャルと蜃気楼

 ビビッドでカラフルな島宇宙の輝きが眼前を埋め尽くす。

 天まで届く構造物の群れが幾何学的で複雑な様相を呈している。

 オーロラが天をかき混ぜて飾り立てた。

 なのに、現実感がまるでなかった。

 何もかもが、つくりものめいている。

 近づこうとしても、いっこうに距離が縮まらない。

 いや、近すぎる。

 ここは虚構の中に生きているからだ。

 ヴァーチャルでもあり、蜃気楼とも取れる。

 本体はあるのだろうが、あらゆるものが投影された影といえた。

 アタシとは交わらない。

 幸せとはなんだろう。

 夢の世界で生き続けることは果たして罪なのだろうか。

 虚栄の光の洪水はそこで生を啜るものの存在を主張していた。

 ホカイを地にそっと置く。

 ここでは光は影をつくってはいなかった。

 茶筒状のホカイの蓋が上に迫り出す。

 急いでこの場を離れる。

 空間の断裂を超えた際に、何ものをも圧する光の爆発の洪水が引き起こされていた。

 クルシサタナヤはガックリと腰を落とし膝を折りうなだれ、頬を涙が伝う。

 どうして……わたしのしたことは無駄だったの……?

 光が収まって、勇気を出し恐る恐る振り返る。

 虚構が大きく離散して羽ばたいていた。

 それぞれの道を進んでいた。

 これは「滅び」ではなく「産み」だったのだ。

 大輪の花が咲いたようなその光景を感慨深く見送る。

 足元に子供の靴が落ちていた。

 もちろん、本物ではない。

 そっと両手で掬った。

 宝石みたいにキラキラ輝いている。

 エリコは物語を視た。

 こんこんと眠り続ける明るみのある石だ。

 頬をくっつける。

 かすかに熱を感じ取った。

 エリコは靴を壊れないよう、宇宙の海に流した。

 心をすいていた。

 ホカイを回収すると、最後まで見届けた。

 あたりはすっかり闇が落ちる。

 私をどうかしまっておいてほしい。

 回収されない想いを、我が内へと入れ込んだ。

 この物語はなんだったのだろう。

 エリコは判然としないまま、意識の回廊を遡り、座布団クッションへとカラダを落ち着かせる。

 ガクッと急激に脱力感が襲う。

 良い、良くないで括ってはならないのはわかっているが訳のわからなさがしこりとしてある。

 なぜだか涙が出てきた。

 KAGUYAが後ろから優しく抱きしめてきた。

「どうでした?」

「……これ、もしかしてぜんぶしなきゃならないの?」

「エリコさんが一人で背負っているわけではありませんし、義務でもないんですよ。これはささやかな関わり合いです」

「……みんな、ああなの?」

「さて、どうでしょう」

「いじわる」

「フフフ、すべてを開けるとエリコさんはぱあんっと内部破裂してしまいます」

「まだ、赤ちゃんだ」

「……」

 アタシはまだ入り口にも立っていないかもしれない。

  

 


 

 

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