第13話 待ちたるはアンノウン
朝起きて、いつものルーティンをこなしながらいつもと意識が違うことを自覚する。
新しいやりがいを見つけたからだ。
生卵にごはんと3Dプリンタ肉をモリモリ食べ、なめこと豆腐の味噌汁を啜る。
食べ終わり、支度をすると定点観測をしに出かける。
地球で寛いでいるようで、キチンとやることはやるのだ。
それはこれまで通りと同じ。
南極へは忘れず行くように決めていた。
中国の成都、重慶で米や鉱物資源を調達してゆく。
一通り終わり、自宅で一息ついたところで椅子を庭に置いた。
素朴な庭園の体をなしているここは、お気に入りの場所のひとつだ。
カーたんも仕事を済ませてサングラスをかけてやって来る。外にでもいたのだろうか。
何かあれば介入できる位置に陣取り、腕を組んでリラックスしている。
まったくの威圧的ではない。好きなようにやってくれという感じだ。
そのまま座ろうとしたが、咄嗟の思いつきでもう一脚座布団クッションを乗せた木製の椅子を持ち込んだ。
向かい合わせて配置すると、真ん中に座布団クッションを敷き、その上に胡座をかいて腰を下ろす。
思考が滑る。
視界が変性する。
徐々に見えてきた。
座るものがトリガーなのか?
直感的に志向を投げる。
意味を読み取れるようにもヴィジュアル、ヴァーチャルとも受け取れる。
意識を集中させた。
モニターがポップアップする。
深淵の大暗黒が口を開けている。
カーたんの方を今一度見る。
サングラス越しでも分かる、あたたかな眼差し。
唾を飲み込んで、モニターに手を触れる。
自分の身体とまわりの時空がチューニングされる。
くらっと意識がどこかに持っていかれそうになった。
ふんじばってこらえていると、エリコは何もかも分からないことに思い当たった。
記憶に、ぽっかりとした虚ろが流入してくる。
何かが目の端をかすめた。
鳥だ。
高い空を、鳥のような生き物が渋滞して縦横に飛び交っている。
身体が重い。
息の音がおかしい。
自分は、どうやら死のうとしている。
するとこれは臨死体験なのか。
アタシと私が意識に立ち上る。
他人にしては自分にあまりにもフィットしているし、何やら新しいとば口に立っている肌触りがする。
混交しているわけでもないし、融合し始めていもいないのでそのままに置いた。
私は通信を受ける。
「そちらはまだけんざいか」
スゥースゥーハァーハァー……
声が出せない。
私はまだ生きている……。
「そうかまだのまれてはいなのだな」
どういうことだろう。
不思議なやりとりだ。
テレパシーとも違う。
それでもアタシの物語でないことは強く実感していたのだった。
何かが始まりつつあるのだ。
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