第11話 地球の長い休日

 エリコは少し遅めの朝を迎えると、惰性で朝のルーティンを済ませ、かったるく身支度を整える。

 あくびをしながらだらだら外へ出る。それでも腰には愛刀「在殺し」を忘れない。

 今日の地球も蒸し暑い。手をかざして空を見ながら服の冷房機能をオンにする。

 いつもと変わらない、終わりに向かっている日常の光景だ。

 ぴょんぴょんぴょんと縮地でファクトリーまでたどり着くと、めぼしいものを物色し始める。

「今日も定番な〜」

 いつもの事なのだが、習慣になってしまった独り言はやめられない。

 生産ラインはほとんど止まってしまっていて、決まった製品しか作り出さない。

 それでもコーンクリームシチュー缶を見つけた時は今日は当たりだ、と心の中で小躍りする。

 順に巡っていって3Dプリンタ肉、メロンと夏野菜を背負ってきたリュックへ放り込むと、廃墟の溜まりから湧き出す天然水を思う存分がぶ飲みする。

 見慣れた風景だが、ここもずいぶん寂れてきた。

「終わりが近いのかねえ」

 流星雨もよく見られるようになった。

 そのうちでかいのががつん!とくるかもしれない。

 アタシには宇宙船が無かった。

 あったとしても、ここを出ることもできない。

 脳にそう刷り込まれているからだ。

 さらにアタシは、元は男だ。

 矯正手術によって、女性人格が無理くり(おっと失礼、今のカラダに合うように)形作られている。

  LGBTQとは一線をもう超えてしまっていて、ジェンダーどうのこのという問題ではない。

 それにこの時代、最初の人格は尊重されることはされるが、それだけなのだ。

 アタシの外見は14、5歳の和装っぽい赤くない鬼っ子娘の格好をしていて、男性人格の気を惹きやすいボディらしい。この刑を受けるときにいろいろ聞いていたのだが、ほとんど忘れてしまっている。

 冤罪だったのだが、聞き入れられなかった。

 アタシはハメられたわけだ。

 その時から生きる気力を無くしてしまって、しばらく頭陀袋化していたが、あるとき冷たい水がすごく飲みたくなって死ぬほど飲み干していたらピーンと閃くものがあり、そこからほどほどに生きる気力が湧いてきた。

 このカラダは歳をとらない。

 永遠に苦しんで、反省しろということらしい。

 バックアップも万全で、超高速再生までのおまけ付きだ。

 アタシの知らない機能や能力がてんこ盛りされているのは、もうひとつの刑務を遂行するためだ。

 「この地球を何としてでも守り抜け」

 やるのはいいよ、ただ刑務所に入っているよりはマシだからね。

 だけどさ、誰もいないっていうのに、全くどうしろっていうのさ?

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