第6話 物語帯

 目の前に帯状の空間リボンがある。

 そこではアタシはただ1人残された砂漠の惑星で今まさに餓死と病気で死に絶えようとして虚空に手を伸ばしていたところだった。

 別の空間リボンもある。

 飛翔する光体となって宇宙を旅しているのだ。

 星の誕生と崩壊をイベントホライズンから眺めていた。

 これはなんだ?

「物語帯よ」

 死角に真っ黒いコーデに身を固めたお嬢様風の女児が日傘をさして足を屈んで上半身をこちらに向けている。

 カーたんは見当たらなかった。

 その装いに反して肌は雪のように真っ白で、髪もプラチナっぽい白さだ。

 瞳がエメラルドグリーンなので、日本人じゃない。

 女児はふぁぁとあくびをしながら、気だるそうに続ける。

「物語帯はこの世界に隣接する他の世界の物語の織り込んで食い込んだ部分が、ビジュアル化したものなの。この世界――というより存在するものが物語と折り合いをつけようとして衝突し合い、この世界を確立した残滓といったところね。上の存在ともなると、都合の良い物語を押し付けようとして、物語化攻撃を放ってくることもあるわ」

「物語化攻撃?」

「高度な法則攻撃よ。物理法則攻撃の場合は仕掛けられた当人も認識可能なため、回避手段も講じられるのだけど、物語化攻撃は違う。認識もできないし、回避もできないの。できるのは物語で対抗することぐらいね。もちろん物語化攻撃ができるのならぶつけ合うのも可能ではあるけれど」

「そんなの初めて聞いたぞ」

「それはそうね、上の存在はそういうことを一切明かさないし、これは奥の手でもあるのだから。できる存在も限られているというのもある」

「なんで教えてくれるの?あなたも上の存在?」

 女児はため息をつく。

「わたしはわたしがわからないわ。なぜ知っているのかも忘れてしまった。あなたに教えるのは、まあ、似たような境遇のよしみね。ひとりぼっちだし、この世にどこか飽いている。そうでしょ?」

 そう言われてはじめて自分がそうであると自覚していた。

 それでも、アタシは生きたいとも。

「あなたにはすでに変化が訪れているはずよ。この後どうするかはあなた次第。ふう、ここもそろそろ潮時ね。わたしはそろそろお暇させていただくわ」

 ごうんごうんと、何かの駆動音が聞こえてくる。

「物語船は知ったその瞬間からあなたのものよ。時間をかけて創り上げるといいわ。ふふ、お互い定めがあるといいわね。それじゃ」

 女児は日傘をさしたままふわりと浮き上がりしゃなりと彼方へ昇って行ってしまった。


  

 

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