第5話 奇跡は降ってこない

「こーう、隕石型の分子マシンのAI宇宙船が降ってきて、大冒険の始まり!ってならないかね〜」

 エベレストかき氷練乳がけをシャクシャク満喫しながら、パラソル下の真っ白いテーブルセットで束の間涼んでいたエリコは老朽化が激しい超高層ビルのヘリポートで恒例の独り言を言う。

 カーたんは見回りに行っているし、外からの脅威はやってきそうにない。

 流星雨はアタシでもどうしようもない。

 人類は何をそんなに恐れているんだろう。

 アタシはエベレストかき氷練乳がけを満喫した。

 ……?

 違和感がある。

 もどかしいのにたどり着けない、そんな感覚だ。

 ここはこんなに居心地がいいのに?

 どうしてだろう、あまりここにいてはいけない気がする。

 それを言語化しようとすると、頭に靄がかかってしまう。

 まるで自分が何かの鋳型に嵌められているような……。

 そう言うのをなんと例えるんだっけ?

「ごちそうさま」

「お粗末さまでした」

「え?」

そこにはカーたんがいた。

いや、カーたんはアタシの目の前にいて、アタシはエベレストかき氷練乳がけを完食したのだから、いるのは当然なんだけど……。

なんで?

「エリコさん、そろそろ帰りましょう」

「なんで?」

「なんでって……」

 カーたんは少し戸惑ったような顔をした。

「エベレストかき氷練乳がけを食べるためです」

「その為に地球一周旅行して来たんですから」

「でももう全部食べちゃったし……」

「まだ食べられるでしょう?」

カーたんはアタシの手元を見て、自分の手元を見た。そして肩を落として言った。

「……あと1回しか食べられません」

「え?どういうこと?」

 “私”は思わず聞き返した。

 エベレストかき氷練乳がけは3杯目まで食べていたから……いやいや違う、頭の中がごちゃごちゃだ。

 発作のようなものが出ている。

 物事は認識できる。

 でも思考が湧いてこない。

 まるでカチコチにそこの部分だけそこが固まってしまったみたいだ。

 考えるな、感じろ……じゃない、これはちょっとしたピンチだ。

 不可解な状況に頭が武器にならず、ただの受信器となっている。

 アタシは物理はつよつよかもしれないけれど、マインドに関してはよわよわなのかもしれない。

 カーたんがアクションを起こそうとした時、緊張感の暴発のうちに感覚思考が動いた。

 あるのではなく、ないということも突き抜けて純粋経験に重心を置き、そこに自分を一点を残して投企した。

 なんでこんな芸当できたかって?

 アタシの脳に聞いてくれ、アタシには分からん。

 思考が、心が一挙にぐるっと切り替わった。

 えーと、なんだこれ?

 

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