第4話 hacracdia

 太陽光を浴び、流れる雲の海を見下ろしながら、彼女は宙に遊ぶ夢から目覚めた。

 そもそもわたしに夢を見る資格はあるのか?

 順路は半ばまで差しかかりつつある。

 次々と戻る我が子たち。

 子達からの報告を受ける。

 どの子も元気、異常は見受けられない。

 いや。

 ひとつが川で溺れそうになっているロボットを見たという。

 子の話では、その時回路に異常が見られ、間違って地上にコールしたと。

 ……。

 わたしたちは非干渉、非接触が絶対のルール。

 そのために完璧に近いジャミングとステルス機能をも持ち合わせている。

 地上のことは、見て、記録はすれど、アンタッチャブルなのだ。

 外からの電波、通信が入る。

 すぐさま信号を受け取り、しかるべき処置をして、下を飛んでいる子の1人に渡してあげる。

 毎日毎日、生まれた時からこれの繰り返しだ。

 苦痛だと感じたことはない。

 彼女にそのような感覚器官はないのだから。

 だから優しさからも無縁。

 子の行動ログを読み返す。

 アトモスが気遣わしげにさすってくる気がする。

 電子の揺らぎ。

 調和の取れた、ゆったりとした、配慮の行き届いた電気信号が彼女の身体を駆け巡った。

 どうも今日は調子が悪い。

 自動メンテナンスしたばかりなのだが。

 けれどもしも、人間が見たら、こう見えただろう。

 嬉しそうに、微笑んでいる、と。


 彼女はクラディア。高高度通信中継ドローン空母。英語名では並びの良さからHigh altitude communication relay aircraft carrier Drone、女性名のiaをつけて、親しみを込めて、“くらでぃあ”と呼ぶ。


 くらでぃあはみちをつくる。


 下に住むものはそんなことは露知らず、今日も彼女は秘めたる思いで任務につく。


 ――今日は快晴。微風なりて、電波状況はすこぶる快調、良好なり――


 わたしはクラディア。   AIにして、    である――

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