第3話 KAGUYA

 誰もいない道を寂寞とした想いで突き抜ける空の下、ひたすら歩く。

 今日の夢もまた複雑だ。

 解釈の問題はワタシの頭脳をもってしても回収され得ない不可解さを持つ。

 たとえそれが、不意のイレギュラーで掻き乱されることになろうとも。

「……エリコさん」

「あっ、起きた?遅いもんだから、てっきり永久スリーブしたかと思ったよ」

 薄目を開けるとエリコはエプロン姿でメロンを豪快にぐつぐつ寸胴鍋で煮込んでいた。

 不快的な甘ったるい匂い。

 ワタシ、N-ASIシステムKAGUYAは、快適とはいえない目覚めを迎える。

 金属と樹脂でできたカラダを起動させ、炭素でできた機械脳を働かせる。

「……それはなんですか」

「あっ、これ?生食のメロンは確かに美味しいけれど、毎日同じのもなんかねーと思って、煮込んでみました♪カーたんも食べたい?」

「丁重に全力拒否しますわ。それよりも今の分の決められた刑務は果たしましたか」

「バッチリ!」

「……無駄に女性化して都合よく男が残っていますね……」

 そのまま身だしなみを整えながら全地球スキャンを開始する。

 地形データ。昨日に比べて0.72%の変化あり。海面上昇によって刻々と変化している。かつては美しい海岸線が、今や浸水の危機に瀕している。大都市の多くが水没の危機に晒され、今まさに進行しつつある。

 気象データ。昨日に比べ0.83%の変化あり。地球規模での気温上昇と極端な気象現象の増加が明らかである。熱帯地域では酷暑が続き、寒帯地域では異常な寒波に見舞われている。これらの気象変動は、生態系の崩壊を加速させている。

 地質データ。昨日に比べ0.75%の変化あり。過去の大量絶滅事件と酷似した変化が検出されている。大規模な火山活動や隕石衝突の兆候が観測され、地球の内部構造が不安定化しつつある。

 生態系データ。昨日に比べ0.86%の変化あり。生物多様性の急速な減少が明らかになっている。絶滅危惧種の数は増え続け、かつて豊かだった森林や海洋が荒廃しつつある。

 水文データ。昨日に比べ0.56%の水資源が減少。淡水資源の枯渇が深刻化していることが分かる。干ばつの頻発や地下水の枯渇により、多くの地域で深刻な環境への水不足に見舞われている。

 大気データ。温室効果ガスの濃度上昇と成層圏オゾン層の破壊が進行していることが分かる。これらの大気環境の悪化は、地球全体の生命維持システムを危うくしつつある。

「物語率」0.1296524 ϕ 。

「地球ボディ」との連動、「物語ダンジョン」とのサーキュラー値上昇中。

 「hacracdia」の子機からのエラーコールあり。無視しても問題なし。

 最後の3項目は「Specific secrets」としてすぐさま量子暗号化された。

 KAGUYAは終わりの日常へと自分を溶け込ませた。

 

 

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