第2話 幸せがいっぱいの平和たち

 半調理した食べ物をバスケットに入れてガレージに行って並んでいる乗り物をざらっと見て、思わず「フッ」と鼻息を漏らす。

 やはり自分の足が一番だ。

 行く寸前になってコーヒーを失念していて、今日はホットだよ!とコポコポ出来上がるまで携帯機の麻雀ゲームを半荘ふにふに時間を潰す。

 マグボトルに移し替えて、さて出発だと行き先をよく見える眼で見やると、雨雲を纏っているではないか。

 チベット高原は雨降りか。

 もともと降水量が少ない場所だったが、地球全土が夏化してから頻繁に雨が降るようになっている。

「さて……と」

 近場で富士山にしておこう。

 どこに住んでいてもよかったのだが、元日本人としての郷土愛がある。これは矯正ではない……はずだ。

 アタシが受けているのは、女性化と地球防衛で、何もかもに手を入れられたわけじゃない。

 人類はグランドサーバーに意識と記憶をアップロードすると、早々に地球を出て宇宙へ旅立ってしまった。

 AIの開発大競争があった後、シンギュラリティとは似て非なる大変化が起こって、一気に人類は変貌した。

 ……というのはアタシが勝手に拵えた妄想的記憶で、現実がどうだったのかは何一つとして知らぬ存ぜず。

 ただ確かなことは、地球は終わりを迎えており、人類は地球を旅立ったということだ。

 この地球の外のことはアタシの頭の中にはない。

 ぽっかりと穴が空いているのだ。

 記憶喪失?

 というより、無気力だった世の中どーでもいいよ期間にどうやら何か起こったらしい。

 行き着いた地球人のテクノロジーなら、地球をどうにかできたはずだ。

 放棄したのはどういうことだろう。

 地球愛はなかったのか。

 こうなっている状況においても、地球は美しい。

 景色を肴に晩酌をするほどだ。

 仮定として、人間の精神構造自体が変わってしまった可能性がある。

 でもそれならなぜアタシは矯正以外は変わっていないのだろう。

 閉鎖された環境に長くいたから?

 思い返してみると、気がつけば1人だった気がする。

 正確には2体というべきかもしれないが、とにかくアタシはこの地球という牢獄に囚われているわけだ。

 暑いのはテクノロジーでなんとかなるし、1人でやってかなければならない面倒さえ我慢すれば、もうここで終の住処としていいような気分だ。

 夢で見ることがあるが、実はここが本当の地球ではなく、どこか別の星だったという悪夢の時がある。

 いわゆるコピーされた(スワンプ)星とかいうやつだ。

 エビデンスが無い以上、確かめようがないのですぐさま考えることをやめるのだった。

 富士山は程よい暖かさで、デッキチェアで寛ぎながら古いSF小説を読んで過ごす。

 頂上一帯に咲いた花が風で舞い上がる。

 戯れにエリコは刀で軽い演舞を奉じた。

 地球を世界制作する心構えが余剰した。

 地球はなおも脈動し、アタシは一リズムだ。

 と同時に複数・多層の思考経路と選択がカラダを巡る。

 今日も一日平和でございました。

 

 

  

 

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