第6話 如月湊の資質 その3
4月4日 9時30分 授業中
隣の席から軽快な声が飛んできた。
僕は机の上から消しゴムを手に取り、伊月に渡した。
手元を見ると、確かに渡したはずの消しゴムではなく、鉛筆が握られていた。
戸惑いながら、筆箱から予備の消しゴムを取り出し、今度こそ慎重に伊月に手渡した。
伊月は眩しいくらいの笑顔を向けてくる。思わずその笑顔に見とれてしまいそうになったが、すぐに気を引き締め、授業に意識を戻した。
心の中でその違和感がくすぶり続ける。確かに消しゴムを渡したはずなのに、いつの間にか鉛筆を持っていた――何かが変だと、僕は授業に集中しながらもそのことが頭から離れなかった。
4月4日 10時15分 二時間目(体育)
雨音が不満げに言いながら、ジャージの袖を引っ張る。
今日の体育テストは50m走。僕は心の中で少しだけ緊張しながら、スタートラインに立った。
けれど、なんだろう、この奇妙な感覚。体が異様に軽い。運動はいつも嫌いだったけれど、今日はなんだか違う。何故か速く走れる気がする。
深く息を吸い込み、スタートの合図に集中する。そして、合図と共に雨音と共に走り出した。
記録を聞こうと先生の元へ行くと、先生はまるで化け物でも見たかのように目を見開いている。
3.7秒……?世界記録は確か、5秒くらいじゃないのか?こんな記録があり得るはずがない……。一体、どうなってるんだ?これが、僕の資質なのか???
4月4日 13時 昼休み
こいつは消しゴムのことと言い、これと言い、忘れ物をしないと死ぬ病気にでもかかっているのか?僕は内心でため息をつきながら、水筒のコップにお茶を注ぎ、彼女に差し出した。
そして、空になったコップをこちらに差し出してくる。
緑茶?おかしい……。僕はいつも麦茶しか飲まないし、水筒に緑茶なんて入れたことがない。まただ……また、何か不思議なことが起こっている。
胸の中に違和感が広がり、驚きとともに僕はその事実を受け止める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます