第5話 如月湊の資質 その2

4月4日 朝 通学路


いつものビルが立ち並ぶ通学路を、僕はゆっくりと歩いていた。車のエンジン音やクラクションの響きが、忙しない朝の空気を切り裂くように漂ってくる。


風が髪を軽く揺らし、空を見上げると、灰色のビルに挟まれた狭い空間から覗く曇天が無機質な印象を与えていた。


(はぁ……昨日は新学期早々学校に行けなかったが、今日はちゃんと行かないと)


心の中でつぶやき、ため息をつきながら学校へと向かう。


昨日の出来事がまるで幻だったかのように、街はいつも通りの日常を取り戻しているように見える。

その時、突然後ろから元気な声が飛び込んできた。


???みなとー!おはよー!」驚いて振り返ると、そこには一年の頃のクラスメイト、宮夜伊月が立っていた。


宮夜はいつも明るく、クラスのムードメーカー的な存在だ。彼女の元気な笑顔を見ると、自然とこちらも元気をもらえるような気がする。


少し驚きながらも、僕は笑顔で挨拶を返す。おはよう伊月」


すると、伊月は僕の顔を心配そうに覗き込んだ。


伊月昨日は大丈夫だった?!学校に来なくて心配になって、先生に聞いたら病院に運ばれたって……」


彼女の声には、心の底から湧き上がる不安が感じられた。

僕はその気持ちに応えるように、軽くうなずいた。


うん、大丈夫だよ。ちょっとしたことだったんだ」


伊月に笑顔を見せて安心させようとするが、昨日の出来事が頭から離れず、心のどこかでまだざわついている自分がいた。


伊月ならよかったー!昨日はみんな心配してたんだよ!」伊月は安堵の表情を浮かべて、再び明るい声で言った。


伊月っで!さっきから気になり過ぎてたんだけど!その腕から足までに見える雷みたいな模様、なに?」と、伊月が突然真剣な顔で問いかけてきた。


あぁ、蒼空が電紋って言ってたやつか。そういえばそんなのもあったな、と思いながら、少し後悔した。長袖で行けば良かった……


あぁ、これ?ちょっとね。雷に撃たれたんだ」


嘘ではないが、正確でもない。でも伊月には分かりやすく伝えたつもりだ。


伊月それちょっとじゃないでしょ!」伊月はビビりながらツッコミを入れてくる。


まぁ、大丈夫だって。それより学校行こう」僕は話を逸らすように、急いで話題を変えた。


伊月うん!行こー!二年生もいつものメンバーが同じクラスだから、すぐに馴染めると思うよ!」伊月は嬉しそうに話しながら、さっさと歩き出す。


こ、伊月こいつ…!思わず心の中で叫んだ。

ちょっと気になってたクラス発表イベントの結果を、ネタバレしやがって!!


伊月!よくも僕の楽しみにしていたクラス発表イベントを……!」と、軽い不満を表情に浮かべるが、伊月は笑いながら僕の肩をポンポンと叩いてくる。


伊月まぁいいじゃん!それより早く行かないと遅刻するよ!」伊月は急かすように言って、さらに先へと進んでいく。


僕はため息をつきながらも、伊月のペースに合わせて学校へと急いだ。


4月4日 8時10分 学校


学校に着くと、伊月が元気よく僕を案内してくれる。


伊月湊のクラスは私と同じ3階にある2年C組!」


その声の明るさに、少し不安な気持ちも和らいだ気がした。教室の扉を開けると、見覚えのある顔ぶれが僕を出迎えた。


???おっはーきさらぎー」無気力そうに手を振ってきたのは、中学からの"男"友達、風上雨音かざかみあまねだ。


彼はいつもの気だるそうな雰囲気をまといながら、ゆったりとした動作で僕に声をかけてくる。


おはよう雨音」


雨音あれぇ?如月があーしに挨拶するってめずらしー。頭でも打ったー?」と、雨音は興味なさそうに首をかしげる。


失礼だな!僕だって挨拶くらいするぞ!」


思わず突っ込むが、雨音はそれを軽く流す。


雨音そっかー。まーどーでもいいけど」まるで何かがどうでも良いかのように、雨音はぼんやりとした表情で言う。


その後、雨音は突然思い出したかのように、雨音というかー。如月、昨日のニュース観たー?この学校の近くで正体不明の怪物によって街が破壊されたってー」と言い出した。


う、うん。観た。めっちゃ観た」観たというか見た。この目で。


雨音あれほんとーなのかなー。正直信じられないよねー」


雨音でもニュースだから嘘の情報はないと思うしー」


雨音は淡々とした口調で言い、僕は返答に困りながらも、なんとか話題を変えることにした。


あのさ、そんなことより僕の席はどこ?昨日来てないから分からない」


伊月私の隣だよ!今私の存在、空気くらい無かったけど!居ること忘れてた?!」と、伊月がすかさず反応し、僕に軽い抗議をするがまぁ無視でいいだろう


2年C組……か」僕はクラスの名を口にし、心の中で新たな学期が始まったことを改めて実感した。


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