「銀の夜が消えた。」〜遠く離れた十三年〜

沼津平成

第1話 Feat.沼津

「あーっ千波ちなみ!」いたのか、と副将の蘭高らんこうが優しく話しかける。

「おう!」千波はふわりと笑って答えた。四月の葉っぱが爽やかに揺れて、萎れかけた桜が何枚か落ちた。

、書いてきたか」と聞いたのはリーダーの翔太しょうただ。翔太は黒く細く長い髪をかき分けた。何本か人差し指に絡まった。翔太は、気にしない。

 背の高い翔太が朝礼台のように高いローラー滑り台の頂上から俺たちに語りかけてくる。翔太は今後の計画を話した。

 沼津港に移動することにした。「もう何日かは立ち寄れないんだね」と紅一点の千波がいった。

「何日じゃないぜ。何週間、何ヶ月」蘭高が答えた。翔太がむくれる。「俺たちの旅を舐めちゃいけない! そうだ。舐めちゃいけねえ」

「最後に、鯵くすねるか」背の低く軟かい夏彦なつひこが聞くと、「当たり前だろ」と返ってきた。

 蘭高が鯵を牛乳瓶のオレンジ色の箱から何本か掴もうとすると、漁師に見つかった。

「ゲッ……ト!」

 蘭高は前屈みになったまま踵を返した。

「こら——っ! 待て——」

 漁師の弟子を名乗る、釣り人の少年が笑った。彼は鯵を何匹かくれる地元の少年で、翔太たち「沼津組」のお得意さんだった。


    *


 浪子なみこは翌る日の夜遅くはじめて私立探偵沼津組をたずねた。探偵とはいっても、怪しい奴を見つけてボコるだけだ。帰ってこないのは日常茶飯事だったが、それが連絡なしに続いたのは数えるくらいしかない。大手印刷会社に頼んで30部を3回ばかりビラを刷ってもらったときぶりだ。浪子は嫌な予感に襲われて眩暈がしそうになった。

(まさか……うちの子、家出したのでは?)そんなことないと、波子は思い直したが、夜の野良犬のように深く叫ぶことを止められはしなかった。その声は琥珀色の明かりが点いた沼津組事務所に当たって、跳ね返っただけだった。

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