スーパー猫ニャン吉

丸子稔

第1話 わがまま猫登場!

 オレの名前はニャン吉。飼い主の小川太郎が付けたものだ。

 この令和の時代に、こんな昭和チックな名前はどうかと思うけど、こればっかりはどうしようもない。

 そもそも、太郎はネーミングセンスがない。

 太郎は猫好きが高じて、三年前に猫カフェをオープンしたんだけど、その名前が【猫なで声】。

 本人曰く、どうしても猫という言葉を使いたかったみたいなんだけど、それなら【まねき猫】とか【猫ハウス】とかにすればいいのに、よりによって【猫なで声】はないよな。


 この【猫なで声】は、オレが生まれてすぐにオープンしたんだけど、オレはオープン当初から働いているんだ。

 もちろん、当時の記憶は残ってないけど、太郎が言うには、オレは老若男女問わずすべての客に愛嬌をふりまいたらしく、ダントツの一番人気だったみたいだ。

 えっ、じゃあ今はどうかって?

 もちろん今も他の猫を大きく引き離して、ぶっちぎりの一位……と言いたいところだけど、これが全然違うんだよな。

 今は三年前と逆で、ぶっちぎりの最下位。その理由は、客をより好みするから。

 オレが愛嬌をふりまくのは若くてかわいい女性だけで、それ以外の者には基本ツンとしている。

 抱っこを許しているのも若くてかわいい女性だけで、それ以外の者が抱っこしようものなら、例外なくオレの鋭い爪の餌食になっている。

 と、こんな風に言うと、オレのことをわがままな奴だと思うかもしれないけど、オレはただ自分の心に正直に生きてるだけなんだぜ。


 これである程度オレの人となり……じゃなくて、猫となりが分かったところで、【猫なで声】で一緒に働いている仲間を紹介しよう。

 まずは、メス猫のミーコ。三毛猫の彼女は店の中で一番かわいくて、性格は純真。年齢は二歳で、半年前からここで働いているんだ。

 その頃からずっとアプローチしてるんだけど、なかなかオレの気持ちに応えてくれないんだよな。

 また、ミーコは近所の家で飼われていて、家族が家にいない平日の昼間だけ働いてるんだ。

 次に、オス猫のタンゴ。彼は真っ黒な体をしていて、気性が荒いんだ。

 タンゴもミーコのことが好きで、オレたちはしょっちゅうケンカしてるんだけど、その度に太郎に怒られてるんだよな。

 年齢もオレと同じ三歳ということで、彼とはいろんな意味でライバル関係にあるんだ。

 次に、オス猫のタマ。彼は体にオレンジ色のしま模様がある、いわゆる茶トラというやつで、性格は甘えん坊。抱っこされることを嫌がらないタマは、まだ生まれて三ヶ月にもかかわらず、ミーコと並んで店の看板猫なんだ。

 次に、オス猫のシロさん。シロさんはその名の通り真っ白な体をしていて、この店最年長の十五歳なんだ。性格は穏やかで、オレは困ったことがあると、いつもシロさんに相談してるんだ。

 ちなみにオレは、シルバーグレーの毛色にブラックのしま模様が入った、いわゆるサバトラというやつで、額の毛色が鼻筋を境に八の字の形に分かれていることから、ハチワレとも言われているんだ。

 オレは生まれてすぐ飼い主に捨てられたんだけど、もちろんその頃の記憶が残っているわけではない。けど、太郎がそう言ってるから間違いないだろう。

 空き地のダンボールの中で鳴いていたところを太郎に拾われて、今に至るってわけだ。

 あと、店には他に十匹ほどいるんだけど、全部の紹介をするのは面倒だから、この辺でやめとくぜ。


 次に、オレの一日のスケジュールをざっと説明しよう。

 まず朝八時に起きて、仲間と一緒にキャットフードを食べる。

 早く食べないと他の者に横取りされるから、急いで食べる。

 やがて食べ終わると、他の者がキャットタワー等で遊んでいる中、オレは新聞に目を通す。といっても、見るのは番組欄だけで、そこで気になる番組があると、その欄を前足で踏んで、太郎に知らせる。

 すると、太郎がチャンネルをそこに合わせてくれるので、オレは店が開く午前十時までテレビを堪能することができる。

 えっ、テレビの内容が分かるのかって? おいおい。それを聞くなら、まず新聞が読めるのかって聞くのが先だろ。

 普通、猫は字が読めないものだけど、なぜかオレは読めちゃうんだよな。

 この能力は生まれつき備わっていて、オレは子猫の頃から字が読めたんだ。

 あと、テレビだけど、もちろん内容は分かっている。じゃないと、見ていても、つまらないだろ?

 つまり、オレは人間の言ってることが分かるし、字も読めるスーパー猫なんだ。

 といっても、さすがに人間の言葉はしゃべれないんだけどな。ていうか、もししゃべれたら、もはや猫じゃなくて人間だよな。


 店がオープンすると、オレは客が来るまでずっとミーコとおしゃべりしてるんだけど、いつもタンゴがオレたちの間に割って入ってくるんだよな。

 それがうっとうしくて仕方ないんだけど、まあタンゴの方もそう思ってるだろうから、お互い様ってやつだな。はははっ!

 やがて客が入り始めると、オレは若くてかわいい女性の周りをうろついて、遊んでほしいとアピールするんだ。

 すると彼女たちは、オレのことを抱っこしたり、猫じゃらしで気を引こうとするんだ。けど、はっきり言って、オレは猫じゃらしに飽き飽きしてるんだよな。

 それでも一応興味のある振りをして、飛びかかったりしてるんだぜ。

 その後、夕方七時に仕事を終えると、オレは大概、太郎の息子で現在小学四年生の次郎と遊んでいるんだ。

 次郎は太郎と同じように、オレが人間の言葉が分かるのを知ってるから、その日学校であったことを詳しく教えてくれるんだけど、毎日同じようなことを聞かされて、いい加減飽きてるんだよな。でも、もちろんそんな素振りは見せられないから、オレはいつも真剣に聞いてるんだ。

 どうだ? オレって健気でいいやつだろ?


 


 




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