第二話 ゼパルとやらの可能性

別に、なにか、自分の中で理由があったわけじゃない


彼に目を付けた、彼に興味を持ったのは


理由なく、ただ彼は普通に生きるには目立ちすぎていた


それが悪い方なのか、良い方なのかはわからない


彼は才能を持ちすぎていた、シトリーという人間は


「さて、ゼパル、まず、すべきことがある」


シトリーは牢獄のハンモックに腰を掛け


牢獄の中から外にいる俺に対して口を開く


「どうやって、この牢獄から出るか、だ」


「は?お前の腕ならちょちょいのちょいだろ?」


「魔術に手を染めたせいで、聖の力を失ってね」


「はぁ、それなら魔術を使って出ろよ」


「それが、残念ながら僕には魔術の才能は無かったらしい」


「はァ?マジかよ、、数分前の俺、考え直した方がいいかもしれねぇ」


「おお、それは良い、今すぐ時間逆行でもしてアドバイスでもしてきてくれ」


「ちくしょう、できる限り聖術は使いたくないんだが」


そんな事を言いながらも俺は手を合わせ、祈りのポーズを取り、詠唱を始める


リンコウメツリン、砕け、掌薙ショウテイ


俺は詠唱を終えた後、手を広げ、前に出す


すると、手のひらから衝撃が伝わり、牢獄の柵が粉々に砕け、綺麗な出入り口が出来上がる


「41点、こちらにも衝撃が伝わってきたよ、手加減が下手だね」


「それと、詠唱ありじゃ、実践では使えないよ」


シトリーはそう言って牢獄の中から手を叩きながら、さっき出来上がった出入口を通りながら出てくる


「うっせえ、お前のやつと比較すんな、馬鹿」


俺がそう悪態をつく、だがシトリーは何も気にしていないようだ


「おい、こっちだ、こっちから音がしたぞ、シトリーの牢屋だ」


階段の方から、ドタドタと階段を急ぎ降りる音共に、そんな声が聞こえてきた


「お、よかったね、ちょうどいい修行相手が来たよ」


シトリーがその声を聴きながら、俺の方を見てそう言う


俺は、その声を聴きながら、額に汗を描く


「丁度いい修行相手とは私の事かな、シトリー」


シトリーの声に被せながら


一人の神父に似つかない、黒い服を纏った男がシトリーに向かってそう言い放つ


俺はさっきまでの予想が確信に変わる、そして、俺は叫ぶ


「アズライール……ッ」


アズライール、階級 司教、第七位


簡単に言うと、協会の上から三番目の地位の奴らの中で七番目


ちなみに俺たちの先生だ、元


三番目だけど、普通に強い、というか、多分俺じゃ―――


「ああ、ゼパル君、君もか」


「シトリーやりやがったな、そのために俺に聖術を―――」


俺がそう言うと、シトリーは笑いながら


「僕、知らないんだよね、君の実力」


「試してみよう、『ゼパルとやらの可能性を』」


そう言った、こいつ、悪魔かよ


「はぁ、仕方ねぇか」


聖纏セイテン


俺はそう唱える、「聖纏」、聖術の中で最も基礎的な技で


自分の体を強化する技だ


俺が最も得意としている技でもある


「シトリー君はやらないんですか?」


アズライールがシトリーの方を見て、そう言った


というか先ほどしかシトリーの方しか見ていない


「残念ながら、聖術、もう使えないんだよね」


「それはもう知っています、私は魔術の方に興味が」


「残念ながら、僕には魔術の才能が無いみたいで」


「そうなんですか、私はてっきり――」


アズライールはそう何かを言いかけ止まる


「まぁいいです、やる事は変わらないので」


そう言いながら、アズライールは本を開く、戦闘態勢に入った、という事だ


「おいおいおい、なんだ、俺は余所もんかァ?」


「あ、そういえば、いましたね、ゼパル君」


「3秒、ですかね」


アズライールは少し考えた後、そう言った


「あ?何がだ」


「あなたが行動不能になるまでの時間、ですよ」


煽るような声色ではない、ただただ観察、分析した事実を語っている


だが、それが一番イラつく


「じゃあ2秒だな」


「何がですか?」


「お前の顔面に傷がつくまでの時間だよッッ」


そう言いながら、俺はアズライールの方向に飛んで


右の拳を顔面に思いっきりぶち込む


だが、その拳は残念なことに、アズライールの顔面には当たらず、止まる


「ゼパル君、なにか悪い物でも食べましたか?そこら辺に転がってる虫とか、早く治してもらった方がいいですよ、時間もわからなくなってしまっているみたいなので」


アズライールが普段の口調のまま、そう言い放つ、多分、煽るつもりとかじゃなく、素で言ってる


「アズライール、お前も治した方がいいんじゃねぇか」


「もう経ったぜ、3秒」


俺は笑いながら、そう言い放った


それに対して、アズライールは


「あ、もう始まってたんですか」


悪意なく、そう返した

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