魔術とやらの可能性は止まる事を知らない
孤宵
第一話 魔術とやらの可能性
あの日、ある時、ある場所で
具体的に何が起こったのか、それはまだ解明されていないが
一人の人間、性別は不明、年齢も不明
とにかく、ある一人に人物が光を生み出した
照明、明かりというものがまだ発明されていなかった時代の事だ
真っ暗闇、絶望の中に、一筋の光を生み出した
それが発見、記録されている中で、一番最初、始まりの『魔術』と言われている―――
イングラッド歴、665年、12月31日、11時28分58秒、皆が年が変わるのを待っていた頃
ある一人の女が急に腹部の痛みを訴えだした、そして
イングラッド歴、666年、1月1日、0時00分00秒、ちょうど年が変わり、皆が祝福していた、その瞬間
「はぁはぁはぁ、やっと、やっと、生まれたのね」
一人の女が、自分が抱いている赤子を見て、そう呟く
彼が産声を上げた、それが、歴史が変わる、歯車が動き出す、合図だった―――
時は変わり、イングラッド歴、678年、ちょうど、彼が生まれた日から12年経ったときの事
「新しき、まどろみに、眼を奪われ、堕ちていく、仔羊よ」
ある教会の地下に存在する、小さな小さな一室で、そんな声、歌が響く
一人の男がラジオを聞いている、そのラジオから流れている歌だ
だが、その男は決して、好き好んで聞いている、というような様子ではなく
なんとも、めんどくさそうで、すぐにこの場から逃げ出してやりたい、そんな表情をしていた
「あ~あ~、哀れよ、哀れ、神は泣いておられ―ます」
「皆さんッ、分かりますか、神は言っておられます、泣いておられます」
「この貧しくも小さくも細々と敬虔な心を持って、ここまで神に尽くしてきた、この教会から」
「悪魔、『魔術』に手を染めてしまった人間が出てしまった事、その事実に神は涙を流していらっしゃいますらっしゃいます」
「これはとても悲しく哀れなことです、いいですか、皆さん、魔術は『悪』なのです、魔術は『罪』なのです、いいですか、皆さん、絶対に、絶対に手を染めないでください、シトリーのようになっては―――」
そこでラジオは途切れる、正確には、ラジオが壊れる
もっと正確に言えば、男によってラジオは壊された
そして、耳障りな音が無くなったという様子で、そこに置いてあった本を持ち、開き、読書を始める
「それ、良いのか?」
一人の男が牢獄の外から、その様子を見てそう告げる
「君、誰だっけ」
シトリー、牢屋の中にいる男は興味なさそうな顔で、外にいる男に対して質問する
「ゼパル、お前と同期なんだけどな」
「なにか、用?」
「何の用もないさ、まぁしいて言うなら聞きたくてね、この教会の神父としてNo,1の成績を納め、将来はこの教会の大司祭、何なら教皇になるとまで囁かれた、お前が、なぜ『魔術』なんかに手を染めたのか、ってことを」
その質問に対し、シトリーはすぐに言葉を返す
「魔術の事を、なんかっていう君には一生理解することのできない理由だよ」
僕がそう言うと、ゼパルはぎょっとした表情を見せ、じろじろとこちらを凝視した後、また話始める
「こりゃ驚いた、俺の記憶じゃあ、あんたが一番の魔術反対派だった気がするけどねぇ」
「人の心ってやつは意外にもコロコロ変わりやすいのさ」
(そう、人の心ってやつは変わりやすく、そして脆い)
(それを一番僕が知っている)
「……死者蘇生、だろ?」
ゼパルが放った、その言葉にシトリーはピクリと少し反応をしてしまう
「何のことかな?」
「お前が一つの本を読んだ時、その時から急に礼拝に参加しなくなった事」
シトリーの額に一粒の汗が流れる
ゼパルはシトリーの反応を見ながら、話を続ける
「その本の名前は―――」
「辞めろッ」
シトリーの口から、反射的に言葉が飛び出す
それを聞いて、ゼパルはフッと笑った後、口を開く
「まさか、あの、シトリーが人の心配をするとはな」
「お前がその本を読んだ事、そして、死者蘇生、それを実現させようとしている事がバレれば、お前は消される、この世界から」
「魔術を使おうとしている事は教会的にアウトなだけでこの世界の法律としては何ら悪くねーからな」
「そこで、俺に提案がある」
「何?」
「俺にその死者蘇生の実現を手伝わせろ、そして、俺にも使わせろ、ただし、俺が関わっていた証拠は全て消す、残さない、どうだ?お前にとっても、いい条件だろ?」
「馬鹿だ、二人分の術式の用意なんてできるわけがない、一人分でも絶望的なのに」
「だから俺も手伝う」
「二人でやる=二人分手に入るの式は成り立たない、ただ二人分の材料を手に入れるためにかかる時間が増えるだけだ、かかる時間が増えれば、見つかるリスクも増える」
「シトリ―、勘違いするな、これは交渉じゃない、もう決定しているんだ、お前は俺と死者蘇生の切符を二人分、手に入れる旅を今からする、この運命からは逃げられないんだ」
ゼパルはそう言うと、シトリーは一拍置いた後
「なんで、君は死者蘇生の術を見つけたいんだ?」
そう言った
「妹がいたんだ、大切な、妹が」
「魔術師に殺された、ただ、それだけだ」
ゼパルが今までに見せた事が無いくらい虚ろな表情で、そう呟いた
「ああ、そうか、僕も、同じような理由だよ」
そうして、シトリーとゼパルの死者蘇生の術を求めた
奇妙な関係の旅が今、始まった
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