挨拶運動

加藤那由多

挨拶運動

 人生はやりたいことだけできるわけじゃない。それはまだ十数年しか生きていない僕でもよくわかる。

 だから僕がやりたくもない生活委員を押し付けられたのも、不満はあるけどそういうものだと割り切った。

 それでもやっぱり、やりたくないものをやるのは面白くない。飾りだけの役職を背負って生活委員の集会をサボっていたら、いつのまにか『挨拶運動担当』なんてものに就任されていた。

 職員室に呼び出された時は何事かと思ったが、生活委員会を担当する先生に『挨拶運動担当』の仕事として毎朝校門に立って挨拶をするよう仰せつかった。

 さすがに目をつけられてしまった。これ以上サボったらどれだけ重い罰を受けるか想像もつかない。

 仕方ないので翌朝、いつもより一時間早く目覚ましが鳴るように設定し、寝不足で不機嫌なまま学校に向かった。


 挨拶運動はシンプルだ。目の前を通る生徒に向かって「おはようございます」と言うだけ。

 実際僕はその通りにやった。ただ、先生は僕の仕事に不満があるらしく、さっきからチラチラとこっちを見てくる。

 なんとなく、この後小言を言われる気がした。もっとなにかわかりやすい『頑張ってる感』がなければいけないと思った。

 ちょうどそこに、クラスでもおとなしい高木がやってきた。

「おはよーござぁいmぁす」

 そう高木に向かって言うも、彼女は俯いたまま何の反応も見せない。

 そこで僕は高木の前まで歩いて行くと、今は挨拶運動をしているから、挨拶されたらちゃんと返してほしいと注意した。

 高木は申し訳なさそうに余計俯いて、ごめんなさいと小さく呟くと、結局挨拶しないまま小走りで校舎に向かった。

 ふと先生の方を見ると目が合った。僕の今の頑張りが見られている。評価は間違いなく良いと思った。

 実際、始業の時間が近いから解散と先生に告げられた時、今日の働きっぷりは悪くなかったとも言われた。

 だからその日から挨拶をしない奴を見つけては、個人的に注意喚起をするようにした。

 その中には高木もいたが、一向に改善されることはなかった。

 そんなことを続けたある日、挨拶運動が終わった後に先生に呼び出された。

「昨日高木から相談があったんだ。お前が毎朝注意してきて怖いってな。怖いってのは言い過ぎな気もするが、はっきりと大きな声で挨拶をするわけでもないお前が人を注意するのもなんか違う気がしてな。これからは挨拶だけしてればいいから、もっとちゃんと声出せよ」

 先生はみんなに挨拶をしてほしいんじゃないのか。そのために行動した僕は褒められるべきじゃないのか。

 何を言われているのかわからなくて、目の前が真っ暗になった。

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挨拶運動 加藤那由多 @Tanakayuuto

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